知能検査ではわからない、大切な能力

「学校の授業について行けない」
「落ち着きがない」
「集中力が続かない」
「指示が聞き取れない」

学校での何らかの困りごとがあると、発達相談を経て教育センターや医療機関等で知能検査を勧められることでしょう。そして、検査結果の数字を聞かされ、知能の大体の程度、数値のばらつき等の説明を受けます。保護者の立場からすると、どう受け止めていいのか戸惑うことも多いでしょう。とりわけ、知能指数(IQ)が低い(70未満だ)と知的「障害」とされるため、ショックをうけるかもしれません。

しかし、人間の大切な能力はIQだけではありません。高IQで人生をうまく過ごせない人も沢山いますし、IQが高くなくても、要領よく人生を過ごし幸せな人生を送っている人が沢山います。検査を受けて数値が示されることで「障害」と向き合わざるをえない人もいれば、知らないまま過ごして行く人もいます。

そもそも目立った困りごとがなければ、知能検査を受ける機会はありません。そのため、日本には統計的にはIQ70未満の知的障害者が2%いる可能性があるのですが、厚生労働省が把握している知的障害者は1%未満にすぎません。調査で把握される知的障害者が少ないということは、診断がなくてもうまく生きていけている可能性が考えられます。(もちろん、その反対に支援が届いていない可能性も考えられます。)

■そもそも知能とは何なのか?

最も一般的に実施されているWISC検査の考案者ウェクスラー博士によれば、検査で測る「知能」について「目的に沿って行動し、合理的に思考し、能力的に環境を効果的に処理する個人の総合的・全体的能力」と定義されています。

つまり、「環境に適応していく能力」で、記憶・知覚・理解・思考・判断などの「物事を処理する能力」と言われ、これらには学習能力、知識を得る能力、思考力、想像力などさまざまな能力が含まれます。しかし、これらで「知能」自体を表しているとは言えず、知能そのものについてはまだはっきりわかっていません。

特に、計画する力や実行する力、やる気、思考の柔軟さや対人コミュニケーション能力については、今のところ知能検査ではうまく測れないのが現状です。しかしながら、これらの能力は人間にとって非常に大切な知能の一部分であるのは言うまでもないでしょう。

WISCで測る知能検査の脳の機能がどの部分に当たるのかを、「神経心理ピラミッド」(ニューヨーク大学医療センター・ラスク研究所の仮説)を使ってみるとわかりやすいです。このピラミッドも認知機能が階層構造を形成していると仮定したモノで、確定的なものではありませんが、このピラミッドに照らし合わせてみると、知能検査で測れるものはピラミッド真ん中にあたる一部分に過ぎないことがわかります。

赤く囲まれた部分は下層の機能が合わさったものとするならば、「意欲」がなければ、検査結果は低くでることになります。やる気がなく、神経疲労がある場合、知能検査が高く出ることはないというのは納得できます。

また、上の層についても、赤い□で囲まれた部分の数値が高くても、「実行機能」の能力が低ければ日常生活でパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう。

実行機能とは、「目標を設定して、計画、実行する」機能です。学校や日常の課題を計画的にこなし、未来に備え必要なモノやことを準備し、実行していく能力です。

実際、交通事故などで脳が損傷し、「高次機能障害」になると、IQが高いままであるにも関わらず、日常生活に多大な支障をきたします。実行機能が失われるからです。

つまり、知能検査結果が必ずしも社会生活に必要な全ての「知的能力」ではない、ということです。

逆に、知能検査の結果が低くても、上層の「実行機能」がしっかりしている人もおり、そういう人は、お勉強が苦手であっても、機転が利いたり、要領がよく、社会生活上うまくやっていけます。さらに、下層の部分の「意欲」が高い人は、就労先等で大切に扱われることも多く、必ずしも知能検査の結果が生きていく上でのマイナスにはなりません。

そして、幼少期の知能検査の低さは必ずしも固定的なものではなく、学校生活の中で改善していくことも十分あることを知っておくといいでしょう。

知能検査の結果に一喜一憂せずに今するべきことを丁寧にしていくことが重要です。


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ギフティッド国際教育研究センター
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