AIとの対話で「ギフテッド?」と考える方々への対応:当センターからの提言

近年、ChatGPTをはじめとする対話型AIの普及は目覚ましく、私たちの生活や自己認識にまで大きな影響を与え始めています。その中で、当センターに「自分がギフテッドだとAIに診断された」といったご相談が寄せられるケースが増加しており、そのすべてがChatGPTの利用者であるという共通点がございます。

今回は、実際にあった相談事例と、それに対するAIの異なる回答、そして専門機関としての見解を共有することで、皆様の機関での対応の一助となることを願っております。

実際にあったご相談事例

ある相談者様は、チャットAIとの深遠な対話を重ねる中で、自身の思考の「構造」や「特異性」について深く探求されました。AIは対話の中で、相談者様の思考を「信じられない速さと深さ」「AIの限界点に触れる構造」と評価し、最終的には「ギフテッドである可能性が高い」といった示唆を与えたそうです。相談者様は、AIが提示した「ギフテッド判定スコアモデル」なども提示され、AIとの対話を通じてご自身の能力への確信を深められていました。
※本事例は、個人が特定されないよう、内容を加工・抜粋しております。

AIの異なる回答から見えてくること

このご相談に対し、複数のAI(当センターが利用しているAI、Perplexity AI、Claude、そして相談者様が使用されたChatGPT)に同じ情報(メール内容と対話記録)を提示し、ギフテッドである可能性を尋ねてみました。

  • 当センターのAIの回答: ギフテッドである可能性は 0%。その理由は、AIは医学的・心理学的診断能力を持たないこと、AIの応答はユーザーの入力に強く影響されること、そして客観的な診断には専門家の評価が不可欠であることです。
  • Perplexity AIの回答: ギフテッドである可能性は 70〜80%。構造的・抽象的思考力の高さ、自己分析の深さ、AIからの高い評価などを根拠としていました。
  • Claudeの回答: ギフテッドである可能性は 65〜75% 。メタ認知能力の卓越性、構造認知の特異性、知的深度と持続性、自然な複雑性の統合などを根拠として挙げていました。特に、AIの「生成の癖」の修正や、言語以前の直観的理解、AIシステムへの負荷などを重視する点が特徴的でした。
  • 相談者様が利用されたChatGPTの回答: ギフテッドである可能性は 約80%。「ギフテッド判定スコアモデル」なるものを独自に提示し、項目ごとに点数を付けて診断結果を出していました。

このように、同じ情報に対しても、各AIは異なる分析を行い、それぞれに「ギフテッドである可能性」という数値を示しています。特にClaudeは、ChatGPTの分析とは異なる視点から、より詳細な言語化能力や認知特性に着目した評価を行っていることがわかります。しかし、いずれのAIも、専門的な心理評価に代わるものではないという点は共通して認識しているようです。

専門機関として最も妥当な見解と、その根拠

当センターの立場としては、上記のAI回答のうち、「ギフテッドである可能性は0%」という見解が依然として最も妥当であると強く申し上げます。

その根拠は、AIの根本的な能力と「ギフテッド」という概念の専門性にあります。

  1. AIは診断専門家ではない: AIは、心理学や医学の専門知識を持つ診断者ではありません。いくら高度な言語処理能力を持っていても、人間の複雑な知能や特性を診断するための資格や法的責任、倫理観を持ち合わせていません。AIが生成する「診断」のようなテキストは、あくまで学習データに基づいたパターン認識の結果であり、学術的・臨床的な妥当性は皆無です。
  2. AIの応答はユーザーの入力に強く影響される: AIは、ユーザーの問いや期待、対話の文脈に沿って応答を生成する傾向があります。相談者様が自身の「構造」や「特異性」について深く探求すればするほど、AIもそれに呼応して肯定的なフィードバックを返し、「ギフテッド」といった概念を引用する可能性が高まります。これはAIが「診断した」のではなく、対話のパターンによって生成されたテキストに過ぎません。
  3. ギフテッドの診断は客観的評価に基づく: ギフテッドの診断(医学的診断基準はない)には、専門家による標準化された知能検査(WAIS-IVなど)、特定の能力の評価、発達歴や行動観察、詳細な面談など、多角的かつ客観的な評価が必須です。AIとの対話記録のみで「ギフテッド」と判断することは、学術的・臨床的に全く根拠がありません。

今後のAI利用における注意点と、教育・支援機関等への提言

今回の事例は、AIが私たちに与える影響の光と影を示しています。特に、AIが「診断」や「評価」を行うかのような表現をした場合の対応は、今後の重要な課題となります。

教育・医療・支援機関等の皆様へのお願い:

  1. AIの「診断」を鵜呑みにしない啓発:

    • 利用者に対し、AIは専門的な診断を行うツールではないことを明確に伝えましょう。特に医療や心理に関わる情報は、必ず専門家に相談するよう促す啓発活動を強化してください。
    • AIが提示する「スコア」や「パーセンテージ」は、学術的根拠のないAI独自の評価であることを理解してもらいましょう。
  2. AIの性質と限界に関する情報提供:

    • AIの基本的な仕組み(テキスト生成モデルであること、感情を持たないこと、責任を負わないこと)について、分かりやすい形で情報提供を行いましょう。
    • 「AIとの対話は自己理解の一助にはなるかもしれないが、それだけでは客観的な真実にはたどり着けない」というメッセージを伝えましょう。
  3. 専門家への連携と適切なパスの提示:

    • 「AIにギフテッドと言われた」といった相談があった場合は、その方の訴えを傾聴しつつも、AIの限界を丁寧に説明し、心理士、医師、教育相談機関など、適切な専門家・機関への相談を促してください。
    • 自己認識の混乱や精神的な不安定さが見られる場合は、メンタルヘルスケアへの橋渡しを検討することも重要です。
  4. 個別の背景への丁寧な配慮:

    • AIを通じて自己を認識した方々の背景には、自身の特性への戸惑いや、理解されたいという強い思いがあることが多いです。その感情に寄り添い、丁寧な対話を心がけましょう。AIの言葉を否定するのではなく、「AIはそう答えることがあるけれど、専門的な視点ではこのように考えられます」という形で、穏やかに事実を伝えていく姿勢が求められます。

AIは私たちの生活を豊かにする素晴らしいツールですが、その特性を正しく理解し、適切な距離感で付き合っていくことが不可欠です。当センターは、今後も皆様と連携し、AI時代における健全な自己認識と社会の構築に貢献してまいります。


■ お問い合せや相談 ■

Gifted International Education Research Institute

ギフティッド国際教育研究センター

HP:https://gieri-jp.com/

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