カナダBC州のIEPにおけるギフテッドの子供たちの才能開発の分析

 カナダの個別教育計画(IEP)について深い分析を行い、それが日本の教育やIEPと比較して、ギフテッドの子供たちの才能をどのように伸ばしているかを以下に述べます。

参考にしたのはカナダのブリティシュコロンビア州で提供されている以下のシートを利用しています。

Category-P-Gifted-Elementary-Example
Category P Gifted Gr. 4 Example

いずれも以下のサイトから入手しています。
参考:Guidelines for Completion and Presentation of Individual Education Plans (IEP’s) and Case Management Plans (CMP’s)
The BC Confederation of Parent Advisory Councils (BCCPAC)


カナダのIEPの例は、ギフテッドの子供の個別のニーズに対応し、その才能を育むための多面的なアプローチを示しています。

  • 個別化された学習環境の重視: カナダのIEPでは、子供の興味(例:「スター・ウォーズ」や宇宙の学習、STEM、長時間のボードゲームなど)や学習スタイル(例:疲れていない時に学習効果が高い、落ち着いた教室環境を好む、数学で挑戦を好むなど)を詳細に把握し、これらを教育計画に組み込むことで、子供が最大限に能力を発揮できる環境を構築しようとしています。これは、学習者が自分自身のペースで、興味のある分野を深く掘り下げられるようにする点で重要です。

  • 強みと挑戦領域の明確化: IEPは、子供の強み(例:あらゆる教科で優秀、数学と論理問題に強い、情報を素早く記憶するなど)と、伸ばすべき領域(例:作業の優先順位付け、他者との協調性、退屈することへの対応など)を詳細に記載しています。特に、「My Stretches(伸ばすべき領域)」のセクションでは、グループワークにおける「仕切り屋」になりがちな傾向や、すでに知っている内容の授業で退屈してしまう点に触れ、これらに対する具体的な支援策(例:ディープな数学の問題にアクセスできるバインダーの提供、宇宙に関するより深い学習機会など)が示されています。これにより、子供の弱点を克服するだけでなく、強みをさらに伸ばすための具体的な戦略が立てられます。

  • 認知能力の向上に焦点を当てた目標設定: IEPの「Core Competency Goals(主要能力目標)」では、単なる知識の習得だけでなく、より深い思考プロセスに焦点を当てています。例えば、課題の優先順位付けや、数学の概念を実生活に応用し複雑な問題を解決するための転用能力の向上などが挙げられています。これは、ギフテッドの子供たちが持つ高度な認知能力をさらに発展させることを目的としています。

  • 多様なサポートと戦略: IEPでは、ユニバーサルな教室でのサポート(例:批判的思考を促すパズルを含むバインダーへのアクセス、グループワークにおける役割の明確化とフィードバックのための定型句の提供など)から、より個別化されたサポート(例:youcubedウェブサイトやbrainzillaなどのサイトからの深いレベルの数学の問題、アラン・チューリングの数学ワークブックの提供など)まで、多岐にわたる戦略が記載されています。これにより、子供が様々な状況で適切な支援を受けられるようになっています。

  • 自己認識と自己調整の促進: 「Personal Awareness and Responsibility(自己認識と責任)」の目標として、課題の特定と優先順位付け、興味のあるものから始めるか、重要度から始めるかなど、自己調整能力を養うための具体的な戦略が示されています。これにより、ギフテッドの子供たちが自身の学習プロセスを自律的に管理できるよう支援しています。

日本の教育・IEPとの比較

日本の個別教育計画(IEP)は、主に発達障害のある児童生徒を対象としており、その目的は、学習上または生活上の困難を抱える子供たちが学校生活に適応し、学力を向上させることに重点が置かれています。ギフテッド教育に特化したIEPの概念は、現在の日本の公教育においてはまだ発展途上であり、カナダのIEPとはいくつかの重要な点で異なります。

  • ギフテッド教育の制度化: カナダでは、ギフテッドネスが特別な教育ニーズの一つとして認識され、IEPを通じて個別に対応されることが一般的です。提供されたIEPの例でも、「Primary Designation: P Gifted」と明確に記載されており、ギフテッドの子供たちに対する制度的な支援が確立されていることが示唆されます。一方、日本では、ギフテッドの子供たちに対する公的な支援制度は限定的であり、才能の早期発見や育成のための個別教育計画の策定は、一部の私立学校や地域の特別な取り組みに限られることが多いです。公立学校においては、一般的な教育課程の中で個別最適化を図る形が主であり、ギフテッドに特化したIEPの作成は稀です。

  • 「強みを伸ばす」アプローチ: カナダのIEPは、子供の強みを特定し、それを最大限に伸ばすことに重点を置いています。例えば、数学や論理問題における強みを認識し、より高度な問題を提供することで、その才能をさらに開花させようとしています。日本の教育では、基礎学力の定着や集団の中での協調性を重視する傾向が強く、個々の突出した才能を特定し、それを特別なカリキュラムや指導法で伸ばすという視点は、まだ十分に浸透しているとは言えません。

  • 個別化されたカリキュラムと支援: カナダのIEPでは、子供の興味や学習スタイルに合わせて、カリキュラムを柔軟に調整し、追加の課題や探究活動の機会を提供しています。これにより、子供が退屈することなく、常に挑戦し続けられるような学習環境が作られています。日本のIEPは、主に障害の特性に応じた学習支援や環境調整に重点を置き、個別の才能を伸ばすためのカリキュラムの個別化には、まだ多くの課題があります。

  • 多職種連携と保護者の関与: カナダのIEPでは、親、教師、ケースマネージャーなど、多様な関係者が「Student Support Team」として関与し、定期的な保護者との協議も行われています。これにより、子供の全体的な発達を支援するための包括的なアプローチが可能です。日本でもIEPの作成には多職種連携が推奨されていますが、ギフテッド教育の文脈においては、専門家の不足や保護者の情報不足が課題となることがあります。


結論

カナダのIEPは、ギフテッドの子供たちの個々のニーズを深く理解し、その強みを最大限に活かし、挑戦的な学習機会を提供することで、才能を効果的に伸ばすための包括的なフレームワークを提供しています。特に、単なる学習支援にとどまらず、自己認識、自己調整、協調性といった「Core Competency」の育成に焦点を当てている点は、ギフテッドの子供たちが社会で活躍するために不可欠なスキルを育む上で非常に重要です。

一方、日本の教育システムでは、ギフテッドの子供たちに対する公的な支援や、個別の才能を伸ばすための専門的なIEPの導入は、まだ発展途上の段階にあります。カナダのIEPの事例は、日本の教育が、ギフテッドの子供たちの才能をより効果的に開花させるために、個別化された学習計画、強みに焦点を当てたカリキュラム、そして多職種連携を強化することの重要性を示唆していると言えるでしょう。


IEPについてさらに詳しく知りたい方
カナダのIEP制度から学ぶ ①- 子どもの個性を活かす教育の仕組み-ブリティシュコロンビア
カナダのIEP制度から学ぶ ②- 保護者の不安に寄り添うカナダの教育


■ お問い合せや相談 ■
Gifted International Education Research Institute
ギフティッド国際教育研究センター
HP:https://gieri-jp.com/
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