注意欠如・多動症(ADHD)と甲状腺疾患の鑑別診断における臨床的課題と誤診リスク:神経内分泌学的視点と日本における診療実態に関する包括的研究報告書(AI利用)

私たちのセンターではバセドウ病の方の発達相談を受けることがあります。ADHDの特性と似通っているため、しばしば誤診の話も聞きます。

本報告書はAIのリサーチを実施し、作成したレポートです。できるかぎり公的な資料や論文を読み込み作成しましたが、全ての引用文献の内容詳細を確認はしていません。ご参考としてお読みいただければと存じます。(AIによる報告書であることを予めご承知おきください)

要旨

本報告書は、神経発達症である注意欠如・多動症(ADHD)と、バセドウ病(Graves' disease)をはじめとする甲状腺機能障害との間に存在する症候学的重複、病態生理学的関連、および臨床現場における誤診のリスクについて、最新の国際的研究論文および日本国内の臨床報告に基づき包括的に分析したものである。特に、両疾患が共有する「過覚醒」や「不注意」といった行動表現型が、いかにして診断の混乱(Diagnostic Confusion)を招くかを詳述する。

調査の結果、甲状腺機能亢進症児におけるADHD診断のリスクは対照群の1.7倍に達すること、成人ADHD患者においても自己免疫性甲状腺疾患の有病率が高いことが明らかとなった。さらに、希少疾患である甲状腺ホルモン不応症(Refetoff症候群)患者の過半数がADHDの診断基準を満たすという事実は、治療抵抗性のADHD症例の中に内分泌疾患が潜伏している可能性を示唆している。

日本国内においては、精神科と内分泌科の専門分化が進んでいる一方で、境界領域にある疾患が見過ごされやすい現状がある。未治療の甲状腺疾患患者が推計240万人に上るとされる中で、甲状腺クリーゼがパニック障害や急性精神病と誤認され、適切な治療介入が遅れる事例が散見される。本報告書は、これらの知見を統合し、精神科臨床における身体的除外診断の重要性と、学際的診療体制の構築を提言するものである。


1. 序論:神経精神医学と内分泌学の交差点

1.1 現代医療におけるADHD診断の急増と課題

21世紀に入り、注意欠如・多動症(ADHD)の診断数は世界的に急増している。この現象は、疾患概念の普及、診断基準(DSM-5など)の変遷、社会的認知の向上による受診行動の変化など、多面的な要因に起因する。しかし、ADHDの診断は依然として行動観察と主観的な症状報告に基づく「除外診断」および「症候学的診断」に依存しており、血液検査や画像診断による確定的なバイオマーカーは臨床的に確立されていない

この診断プロセスの不確実性は、類似した行動特性を示す他の医学的疾患、特に内分泌代謝疾患との鑑別において重大な課題を投げかけている。中でも甲状腺ホルモン(Thyroid Hormone: TH)は、中枢神経系の発達、神経伝達物質の代謝、エネルギー産生に深く関与しており、その機能異常は精神神経症状として顕在化することが多い。

1.2 甲状腺疾患による「医学的模倣(Medical Mimicry)」

Medical Mimicry(医学的模倣)」とは、ある身体疾患が精神疾患と区別がつかない症状を呈する現象を指す。甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)における精神運動興奮、易刺激性、集中困難は、ADHDの多動性・衝動性優勢型(Hyperactive-Impulsive Presentation)の臨床像を極めて精巧に模倣する 。逆に、甲状腺機能低下症における精神運動緩慢、認知機能低下、意欲減退は、不注意優勢型ADHD(Inattentive Presentation)やうつ病と酷似している

1.3 本報告書の構成と目的

本報告書は、以下の構成により、ADHDと甲状腺疾患の複雑な関係性を解き明かすことを目的とする。

  1. 病態生理学的基盤: ドパミン系と甲状腺ホルモンの相互作用に焦点を当て、なぜ両疾患が類似するのかを分子レベルで考察する。

  2. 臨床的重複と誤診の実態: バセドウ病、甲状腺機能低下症、および甲状腺ホルモン不応症(RTH)のそれぞれについて、ADHDとの鑑別点と誤診リスクを分析する。

  3. 日本における特異的状況: 海外の知見に加え、日本の医療制度や臨床現場における特有の問題点(専門医制度の弊害、甲状腺クリーゼの精神科誤診事例など)を掘り下げる。

  4. 診断ガイドラインの検証: 米国小児科学会(AAP)や英国NICEガイドラインが推奨するスクリーニング方針を批判的に検討し、実臨床における最適なアプローチを模索する。



2. 神経内分泌学的メカニズム:ドパミンと甲状腺ホルモンの密接なリンク

ADHDと甲状腺疾患の症状がこれほどまでに重複する背景には、脳の発達と機能維持における共通の生物学的基盤が存在する。特に、脳内報酬系および実行機能を司るドパミン神経系に対する甲状腺ホルモンの影響は決定的である。

2.1 ドパミン作動性神経系への影響

ADHDの病態仮説として最も広く支持されているのは、前頭前皮質および線条体におけるドパミン作動性神経の機能不全説である。ドパミントランスポーター(DAT)の過剰発現や受容体の感受性低下により、シナプス間隙のドパミン濃度が低下し、不注意や多動が生じると考えられている

甲状腺ホルモン、特に活性型であるトリヨードサイロニン(T3)は、このドパミン系に対して多角的な制御を行っている。

  • チロシン水酸化酵素(TH)の調節: T3は、ドパミン合成の律速酵素であるチロシン水酸化酵素の遺伝子発現を直接的に制御している。したがって、甲状腺機能の変動は直ちに脳内ドパミン合成量に影響を及ぼす

  • 受容体とトランスポーターの制御: 研究によれば、周産期の甲状腺機能低下は線条体のドパミン受容体密度の変化や、ドパミントランスポーターの機能異常を引き起こすことが示されている。動物実験において、甲状腺ホルモン受容体(TR)の変異マウスは、ドパミン系の調節不全に起因する多動や衝動性を示すことが確認されている

2.2 脳発達における甲状腺ホルモンの役割

甲状腺ホルモンは胎児期から乳幼児期にかけての脳の構造的発達に不可欠である。ニューロンの遊走、ミエリン形成(髄鞘化)、シナプス形成、そして不要なシナプスの刈り込み(Pruning)といったプロセスは、厳密な甲状腺ホルモン濃度の制御下に置かれている。 この時期に甲状腺機能異常(母体の甲状腺機能低下症や早産による低サイロキシン血症など)に曝露されることは、脳の微細構造に恒久的な変化をもたらし、将来的なADHD発症リスクを高める要因となる 。実際、妊娠早期の母体の低チロキシン血症(Hypothyroxinemia)が、産まれた児のADHD症状スコアと相関するという疫学的データも存在し、内分泌環境が神経発達の軌跡(Trajectory)を決定づける重要な因子であることが示唆されている



3. バセドウ病(甲状腺機能亢進症)とADHD:過覚醒症候群としての類似性

バセドウ病(Graves' disease)は、甲状腺刺激ホルモン受容体に対する自己抗体(TRAb/TSAb)によって甲状腺が過剰刺激され、甲状腺ホルモンが無秩序に分泌される自己免疫疾患である。この病態が生み出す「交感神経の過緊張状態」は、ADHDの多動・衝動性症状と極めて類似した臨床像を呈する。

3.1 症候学的重複の詳細分析

臨床医が最も頭を悩ませるのは、甲状腺中毒症(Thyrotoxicosis)による精神症状が、ADHDの中核症状をほぼ完全にカバーしてしまう点である

  • 多動性(Hyperactivity): バセドウ病患者は「じっとしていられない(Restlessness)」「常に何かをしていないと気が済まない」といった焦燥感を訴える。これはADHDの多動性と区別がつかない。

  • 不注意(Inattention): 「考えがまとまらない」「一つのことに集中できない」という訴えは、過剰なホルモンによる脳の過覚醒状態(Racing thoughts)を反映しており、ADHDの転導性亢進と酷似している。

  • 衝動性と情動不安定性(Impulsivity & Emotional Lability): 易怒性(Irritability)、感情の爆発、不安感は、バセドウ病の典型的な精神症状であると同時に、ADHDの併存症(ODD: 反抗挑戦性障害など)や感情調節不全としても解釈されうる

3.2 鑑別診断のアルゴリズムと身体的徴候

精神症状のみでの鑑別は困難であるが、身体的徴候(Physical Signs)の有無が診断の鍵となる。しかし、近年の臨床研究は、これらの身体徴候が必ずしも全例で明白ではないことを警告している

鑑別項目ADHD (多動・衝動型)バセドウ病 (甲状腺機能亢進症)鑑別のポイント
発症様式幼少期からの持続的な特性比較的急性の発症、あるいは症状の増悪病歴聴取で「いつからか」を確認することが重要
睡眠障害入眠困難、中途覚醒(慢性)不眠、睡眠時間の短縮(急性・増悪)以前は眠れていたかどうかが鍵
食欲と体重食欲不振(薬物療法中)、または過食食欲亢進にもかかわらず体重減少「食べているのに痩せる」は内分泌疾患のRed Flag
循環器症状通常なし(薬物副作用を除く)頻脈(安静時100/分以上)、動悸安静時の脈拍測定は必須のスクリーニング
神経筋症状協調運動障害(DCD合併時)手指振戦(Fine tremor)、筋力低下手指を伸ばさせた際の微細な震えを確認
体温調節特になし暑がり、多汗冬でも薄着を好む、寝汗がひどい等のエピソード
眼症状なし眼球突出、複視軽度の場合、家族写真との比較が有効

3.3 誤診のリスクファクターと統計的証拠

Zaderらの研究 は、甲状腺機能亢進症児におけるADHD診断のリスク比(Prevalence Ratio)が1.7であることを示した。さらに衝撃的なのは、甲状腺機能亢進症と診断された症例の**40%において、精神疾患の診断が甲状腺疾患の診断よりも90日以上先行しており、そのうち68.3%**がADHDの診断を受けていたという事実である 。 これは、甲状腺機能異常によって引き起こされた行動変化が、内分泌学的検査が行われるまでの間、「ADHD」として誤ってラベル付けされ、精神科的治療の対象となっている期間(Diagnostic Delay)が存在することを示唆している。


3.4 治療薬による症状増悪のパラドックス

ADHDと誤診されたバセドウ病患者に対し、精神刺激薬(メチルフェニデートやアンフェタミン)が処方された場合、重大なリスクが生じる。刺激薬はドパミンおよびノルアドレナリン系を賦活するため、既に甲状腺ホルモン過剰により亢進している交感神経系をさらに刺激し、動悸、不整脈、高血圧、不安焦燥を劇的に悪化させる可能性がある 。 「ADHD薬を飲んだらパニック発作が起きた」「動悸が止まらなくなった」という訴えがあった場合、副作用と決めつける前に、未診断の甲状腺機能亢進症を疑うべきである。


4. 甲状腺機能低下症と不注意優勢型ADHD:認知の霧

甲状腺機能亢進症が「動」の病態を模倣するのに対し、甲状腺機能低下症(Hypothyroidism)は「静」の病態、すなわち不注意優勢型ADHD(ADD)を模倣する。

4.1 潜在性甲状腺機能低下症(Subclinical Hypothyroidism)の罠

明らかな機能低下症(Overt Hypothyroidism)では、浮腫、徐脈、皮膚乾燥といった身体症状が顕著であるため鑑別は容易であるが、問題となるのは「潜在性甲状腺機能低下症(SCH)」である。SCHは、血中遊離サイロキシン(FT4)が正常範囲内であるにもかかわらず、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が基準値を超えて上昇している状態を指す

SCH患者、特に小児や若年成人においては、身体症状が乏しく、主訴が「集中力の低下」「記憶力の減退」「日中の眠気」「やる気が出ない」といった神経心理学的症状に集中することがある 。これらは「Brain Fog(脳の霧)」とも表現され、不注意型ADHD(SCT: Sluggish Cognitive Tempoを含む)の臨床像と区別がつかない。

4.2 認知機能への影響と研究知見

甲状腺ホルモンは、成人の脳においてもシナプス可塑性や神経伝達物質の維持に関与している。いくつかの研究では、SCH患者においてワーキングメモリ、実行機能、注意機能の軽微な障害が認められており、レボチロキシン(T4製剤)の補充療法によってこれらの認知機能が改善する可能性が示唆されている 。 一方で、ADHD児における甲状腺機能異常の有病率については議論が続いている。中国の研究グループによるメタアナリシスでは、ADHD児(特に不注意型)において血中FT3レベルが健常児よりも有意に高いという逆説的な結果も報告されている 。これは、甲状腺ホルモンに対する末梢の感受性低下や、代償的なホルモン上昇など、複雑なメカニズムが関与している可能性を示唆しており、単純な「低下症=不注意」という図式だけでは説明できない神経内分泌の奥深さを示している。


5. 甲状腺ホルモン不応症(RTH/Refetoff症候群):ADHDと誤診される遺伝性疾患の正体

本報告書において最も強調すべき「知られざる事実」の一つが、甲状腺ホルモン不応症(Resistance to Thyroid Hormone: RTH)とADHDの密接な関係である。RTHは稀な疾患とされているが、ADHDと診断されている患者群の中には、一定数の未診断RTH患者が含まれている可能性が高い。

5.1 RTHの病態生理と遺伝的背景

RTHは、主に甲状腺ホルモン受容体β(TRβ)遺伝子の変異により、標的組織が甲状腺ホルモンに対して反応しにくくなる常染色体優性遺伝疾患である。1967年にRefetoffらによって発見されたため、Refetoff症候群とも呼ばれる 。 通常、甲状腺ホルモンが過剰になると、下垂体はTSHの分泌を抑制してバランスをとる(ネガティブフィードバック)。しかし、RTHでは下垂体のTRβも変異により機能低下しているため、血中のT3/T4が高値であるにもかかわらず、TSHが抑制されず、正常あるいは高値を維持する。これを「TSH不適切分泌症候群(SITSH)」と呼ぶ

5.2 驚くべきADHD合併率

Hauserらの画期的な研究 は、RTHとADHDの間に強力な相関があることを明らかにした。この研究によれば、RTHを有する成人の50%、小児の**70%**がADHDの診断基準を満たしていた。これは一般人口におけるADHD有病率(小児約5-7%)と比較して約10倍の高率である。さらに、RTH患者のADHD症状スコアは、罹患していない家族と比較して2.5倍高かった。

なぜRTH患者はADHD症状を呈するのか

そのメカニズムとして「組織選択的甲状腺中毒症」の仮説が有力である。TRβ遺伝子の変異により、下垂体や肝臓などTRβ優位の臓器はホルモン不応性(機能低下的)となるが、心臓や脳の一部などTRα受容体が優位な組織では、高濃度の甲状腺ホルモンに対して正常に反応してしまうため、過剰刺激(機能亢進的)となる。この脳内における局所的な甲状腺中毒状態が、多動、衝動性、不安といったADHD様症状を引き起こすと推測されている

5.3 臨床における誤診と不適切治療の悲劇

RTH患者は、しばしば「落ち着きがない」「集中力がない」「学習障害がある」といった主訴で小児科や精神科を受診する。そこで血液検査が行われ、T3/T4の高値が発見されると、多くの医師は反射的に「バセドウ病(甲状腺機能亢進症)」と診断してしまう

Gladwinらの報告 によれば、RTHをバセドウ病と誤診された結果、抗甲状腺薬の投与や、最悪の場合は甲状腺摘出術や放射性ヨウ素内用療法(アブレーション)を受けてしまった症例が存在する。RTH患者に対して甲状腺機能を抑制する治療を行うと、TSHがさらに上昇して甲状腺腫が増大したり、極度の甲状腺機能低下状態に陥り、発育障害や精神機能の悪化を招くことになる。これはまさに「医原性の悲劇」である。


6. 日本における臨床実態と特異的な課題

海外の研究だけでなく、日本国内の臨床現場においても、ADHDと甲状腺疾患の誤診問題は深刻な課題として存在する。日本の医療制度や専門医制度の特性が、この問題を複雑化させている側面がある。

6.1 日本の医療システムにおける「縦割り」の弊害

日本は、精神科(精神神経科)、心療内科、内分泌代謝内科、小児科(小児神経・内分泌)といった専門分化が進んでいる。これは高度な専門医療を提供する上で有利であるが、境界領域の疾患に対しては脆弱性を持つ。

精神科医は「こころ」や「脳」の専門家として、身体的診察や血液検査を省略する傾向があり、内分泌科医は「ホルモン」の専門家として、患者の精神症状や発達特性に対する関心が低い場合がある。この隙間に、ADHD様症状を呈する甲状腺疾患患者が滑り落ちてしまうのである。

6.2 日本における甲状腺疾患の潜在患者数

日本甲状腺学会等の推計によれば、日本国内には治療が必要な甲状腺疾患患者が約240万人存在するとされるが、実際に治療を受けているのはその約20%(45万人)に過ぎないとされている 。つまり、約200万人の潜在的な未治療患者が存在し、その一部が「うつ病」「不安障害」「ADHD」「更年期障害」などの診断名で、精神科や婦人科に通院している可能性は極めて高い。

6.3 日本における誤診・合併症例のケーススタディ

事例1:パニック障害と誤診された甲状腺クリーゼ(自治医科大学の報告)

Yasudaら は、34歳の日本人女性が動悸、頻脈、不穏を主訴に救急受診し、パニック発作と診断された事例を報告している。患者にはパニック障害と双極性障害の既往があったため、救急医は身体的急変を「いつもの精神症状の悪化」と判断(アンカリング)し、抗不安薬を投与して帰宅させた。しかし、翌日症状が悪化して再来院した際、甲状腺機能検査で重篤な甲状腺クリーゼ(Thyroid Storm)であることが判明した。 この事例は、精神疾患の既往歴が、身体的危急事態の発見を遅らせる「診断の陰蔽(Diagnostic Overshadowing)」のリスクを鮮明に示している。日本では甲状腺クリーゼの致死率が依然として10%を超えており 、精神科領域での早期発見が救命の鍵となる。

事例2:うつ病治療薬により悪化したRTH(Refetoff症候群)

67歳の日本人女性RTH患者が、うつ症状で精神科に入院した際、抗うつ薬(ミルタザピン、ベンラファキシン)の投与により、クローヌスや意識障害といった重篤な副作用を呈した事例が報告されている 。RTH患者は中枢神経系の受容体感受性が変化している可能性があり、通常の精神科薬物療法に対して過敏、あるいは予期せぬ反応を示すリスクがあることを示唆している。

事例3:診断変更の実態(千葉大学病院の報告)

千葉大学病院精神科の報告 によれば、地域のクリニックから「ADHD疑い」で紹介された患者の詳細な再評価を行った結果、約24%において診断が変更された。多くは双極性障害への変更であったが、診断プロセスにおいて身体疾患の除外を含めた包括的評価(Comprehensive Evaluation)が不可欠であることが強調されている。

6.4 日本の発達外来における問題点

日本の大人の発達障害専門外来は、受診希望者の急増により「数ヶ月待ち」が常態化している。限られた診療時間の中で、問診と心理検査(WAISなど)が優先され、身体的診察(甲状腺の触診や眼球突出の確認)や血液検査が省略されるケースが少なくない。

また、RTHのような稀な疾患に関する知識が、一般の精神科医や心療内科医に十分に普及していないことも、誤診や診断遅延の要因となっている。日本甲状腺学会が策定した「甲状腺ホルモン不応症の診断基準」などは存在するものの、精神科領域での認知度は低い。


7. 診断ガイドラインとスクリーニングの論点:検査すべきか、せざるべきか

7.1 国際的ガイドラインの慎重な姿勢

米国小児科学会(AAP)、米国児童青年精神医学会(AACAP)、英国NICEガイドラインなどの主要な国際ガイドラインは、ADHD診断時におけるルーチン(全例一律)の甲状腺機能スクリーニングに対して否定的である

  • AAP: 「甲状腺機能検査はルーチンには推奨されない。病歴や身体所見から甲状腺疾患が強く疑われる場合のみ実施すべき」としている

  • 根拠: ADHD児における甲状腺疾患の有病率は一般人口と大きく変わらないという研究結果(例えば1%未満)があり、全例検査の費用対効果(コストベネフィット)が低いと判断されているためである

7.2 ガイドラインへの批判と「見逃し」のリスク

しかし、この「ルーチン検査不要」という方針には異論もある。

  1. 無症候性の存在: バセドウ病やRTHの初期には、明らかな甲状腺腫や眼球突出を伴わないケースが多い。子供は自分の動悸や不調をうまく言語化できないため、行動の問題(かんしゃく、不注意)だけが目立つことがある。

  2. RTHの特異性: RTH患者の70%がADHD症状を持つことを考慮すれば、ADHDと診断された患児の中にRTHが潜んでいる確率は無視できない。特に、標準的なADHD治療薬に反応しない場合や、副作用が強く出る場合(Treatment-resistant ADHD)は、再評価が必須である。

  3. 日本の検査アクセスの良さ: 欧米と異なり、日本では血液検査のコストが比較的低く、アクセスも容易である。見逃した場合の社会的損失(誤った診断に基づく長期の療育や投薬、甲状腺クリーゼのリスク)を考慮すれば、日本ではより積極的なスクリーニングが正当化される余地がある。

7.3 推奨される診断アルゴリズム(Red Flags)

臨床医は、以下の「Red Flags(警告徴候)」が一つでも認められる場合、積極的に甲状腺機能検査(TSH, FT3, FT4)を実施すべきである。

  • 身体症状: 安静時頻脈(>100回/分)、原因不明の体重減少、手指振戦、多汗、暑がり、眼球突出、甲状腺腫大。

  • 成長・発達歴: 著しい低身長、骨年齢の遅延(小児の場合)、難聴の既往(RTHに関連)。

  • 家族歴: 甲状腺疾患の家族歴、あるいは低身長や精神遅滞の家族歴。

  • 治療経過: ADHD治療薬の効果が乏しい、あるいは投与後に不安・焦燥・動悸が著しく悪化した。

  • 発症時期: 成人になってから急激にADHD様症状が出現した(Late-onset ADHD-like symptoms)。


8. 結論と今後の展望

8.1 結論:統合的視点の必要性

ADHDと甲状腺疾患の誤診問題は、単なる医学的知識の欠如だけでなく、精神科と身体科の分断、診断システムの構造的問題に根差している。甲状腺ホルモンと脳機能は密接に連関しており、内分泌学的異常が「精神症状」として表現されることは、生体にとってむしろ自然な反応である。

バセドウ病による過覚醒がADHDの多動を模倣し、甲状腺機能低下症による認知機能低下が不注意を模倣する。そしてRTHという遺伝的変異は、その両者の境界領域で臨床医を惑わせる。

8.2 日本の医療現場への提言

  1. 「身体的除外」の徹底: 発達障害外来において、特に初診時や薬物療法開始前に、バイタルサインの確認と甲状腺機能スクリーニングをより広く実施することを検討すべきである。

  2. RTHの啓発: ADHD治療抵抗例における鑑別診断として、RTHの可能性を念頭に置くこと。TSHが抑制されていない高FT4血症(SITSH)を見た場合、安易にバセドウ病と診断せず、専門医へコンサルトする体制を強化する。

  3. 多職種連携パス: 精神科医、内分泌科医、小児科医が連携し、疑わしい症例をスムーズに紹介し合える「リエゾンパス」の構築が望まれる。

8.3 結語

「木を見て森を見ず」という言葉があるが、ADHD診療において「行動(木)」だけを見て「内分泌(森)」を見ないことは、患者に不利益をもたらす。ADHDと診断された患者、あるいはその疑いがある患者の中に、治療可能な甲状腺疾患が隠れている可能性を常に疑う「臨床的直感」と、それを裏付ける「客観的検査」の融合こそが、誤診を防ぎ、患者のQOLを最大化する唯一の道である。






参考文献およびリサーチソースの統合について

本報告書は、提供された164のリサーチスニペット(
)に含まれる海外の学術論文、ガイドライン(AAP, NICE, CADDRA)、症例報告(Case Reports)、および疫学的データを包括的に統合し作成された。特に、日本国内の事例(自治医科大学、千葉大学等の報告)を重点的に取り上げ、日本の臨床現場に即した文脈で再構成している。

主な引用ソースID:

  • 甲状腺とADHDの症状重複・メカニズム:

  • RTH(Refetoff症候群)とADHD:

  • ガイドラインとスクリーニング論争:

  • 日本における事例・疫学:

  • 誤診リスクと統計: 


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