『世界で学ぶ、異文化を越えて働く』 ⑥タイ編: 「笑顔の奥にある怖い目」――“役割”という思い込みを捨てる時
いま、子どもたちに必要なのは「英語」よりも、 多様な価値観を受けとめる力──つまり「異文化のまなざし」です。
本連載では、国際ビジネス、教育、地域開発などの現場で40年以上にわたり、五大陸・88か国を実地に歩いてきたGIERIの国際教育アドバイザー・栂野久登(とがのひさと)氏が、現場で肌で感じ、対話し、乗り越えてきた「文化を越えて働く」リアルな知見を語ります。
単なる“海外体験”ではありません。 言葉・習慣・価値観のズレに直面しながら、どう人と関係を築き、 どう「違い」を教育やビジネスの力に変えてきたか──
「微笑みの国、タイ」。 私たちはつい、その穏やかなイメージに安心しきってしまいます。
しかし、私がビジネスと生活の現場で直面したのは、「微笑み」という名の仮面の下にある、したたかで合理的な社会の素顔と、その日陰に潜む底知れぬ危険でした。
「男だから」「女だから」。 タイは、そんな私の無意識の思い込みを、根底から覆した国です。
1. 「お飾り」の男性と、「実権」を握る女性
タイでビジネスを始めた当初、私は大きな戸惑いの中にいました。現地の巨大財閥「サハ・グループ」や、政府の投資局(BOI)といった重要な交渉先。そのトップテーブルに座っているのは、決まって男性でした。
しかし、交渉が始まるとすぐに気づきます。彼らは「お飾り」なのだと。
実際の交渉を仕切り、ロジックを組み立て、最終決定権を握っているのは、その脇に控える聡明な中華系の女性たちでした。組織のトップには男性を立てつつも、実務と実権はすべて女性が掌握している。それがタイのビジネス界の現実でした。
彼女たちには共通した特徴がありました。 常にニコニコと笑顔を絶やさない。しかし、その笑顔の奥にある目は、一切笑っていないのです。
こちらの発言の意図、矛盾、そして弱点を、冷静に見透かしている。「微笑み」は彼女たちにとって、本心を見せないための鎧であり、相手を油断させるための高度な交渉術でした。
街に出れば、日中から酒を飲んで怠けているように見える男性たちの姿とは対照的に、経済と行政を支えているのは、間違いなく彼女たち女性の力でした。
2. 「微笑みの国」に潜む罠
「タイ人は優しい」というイメージは、時に命取りになります。
私は政府系機関の専門家としてタイに赴任していた時期、ある日本人ブローカーに巧妙に利用され、社会的に抹殺されかけるという経験をしました。
彼は私に近づき、私が担当していた中小企業向けの融資制度を利用しようと企てました。気づかぬうちに私のサインや組織の印鑑が偽造され、不正な融資が実行されようとしていたのです。背後には裏社会の影がありました。
すべてが明るみに出た時、私は組織内で「犯罪に加担した」という濡れ衣を着せられ、四面楚歌の状態に陥りました。日本の常識や「性善説」は、そこでは一切通用しませんでした。
「微笑みの国」のイメージに油断し、人の裏側を見抜くことを怠った甘さが招いた最大の危機でした。(この一件は、最終的に日本の政界にいた知人の尽力によって潔白が証明され、九死に一生を得ました)
安全に見える場所ほど、深い闇が隠れている。タイでのこの強烈な体験は、私の異文化に対する「健全な懐疑心」を叩き込んでくれました。
子育てへの示唆: 「役割」と「見た目」の呪縛から解き放つ
タイでの経験は、二つの重要な教訓を私に与えてくれました。それは現代の子育てにもそのまま通じるものです。
一つは、「性別による役割」という思い込みを捨てること。 私たちは無意識のうちに、「男の子だから強く」「女の子だから優しく」と期待していないでしょうか。タイの実権を握る女性リーダーたちは、性別など関係なく、ただ「有能である」という事実だけでその場に君臨していました。
子どもが持つ才能や特性を、「男だから」「女だから」という古いフィルターで曇らせてはいけません。その子のありのままの力を信じ、発揮させること。それが「微笑みの国」の女性たちが教えてくれた、合理的な強さです。
もう一つは、「見た目」で人を判断する危険性を教えること。 「ニコニコしているから、いい人」。そう思い込むのは簡単ですが、非常に危険です。子どもを犯罪やトラブルから守るためにも、「優しそうな人でも、裏があるかもしれない」と冷静に距離を取る「健全な懐疑心」を教える必要があります。
タイの女性リーダーたちと渡り合うために、私が使った交渉術は「相手の人格そのものを(素直に)褒める」ことでした。それは、子育てにおいて「テストの点」ではなく「あなたの存在そのもの」を認めることと似ています。
うわべの笑顔に惑わされず、相手の本質を見抜き、敬意を持って対話する。そのバランス感覚こそが、これからのグローバル社会を生き抜く「本当の知性」なのだと、私は信じています。
(次回、アルゼンチン編へ続く)
コチラも是非読んでみてください⬇
『世界で学ぶ、異文化を越えて働く』 ⑦アルゼンチン編:
マフィアの船で薬を盛られた日――“正しさ”が通用しない世界の歩き方
『世界で学ぶ、異文化を越えて働く』 ⑧イギリス編:
「名誉白人」と「汚い英語」――“見えない違い”を読み解く力
『世界で学ぶ、異文化を越えて働く』 ⑦タイ編:
「笑顔の奥にある怖い目」――“役割”という思い込みを捨てる時
「世界で学ぶ、文化を越えて働く」ブラジル編①
子どもに伝えたい「本当の異文化」
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