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知的障害なのか?発達障害なのか?その問いは必要なのか。

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特別支援学校の元校長先生といっしょに仕事をしたことがあります。その先生は、常に子どもと関わる際に、Aくんは「知的障害」だから、Bくんは「発達障害」だから、という形で支援や指導の仕方を分けて考えていました。もちろん、「知的レベル」がどの程度であるかは、非常に大切な問題であるし、指導方法や対応を考える上で必要なことではあるのですが、知能検査の「IQ」次第で、(失礼ながら・・・パターン的に)分けて考えてしまうことに非常に危うさを感じました。知的障害と発達障害は全く別物なのでしょうか。 知的障害のあるグループは、一般よりも自閉スペクトラム症の特性をもつ人の割合が多いことは知られています。知的障害がないタイプの自閉スペクトラム症が注目されたのは近年であり、中等以上の知的障害の場合は、併存の割合が高くなることはよく知られていました。発達障害と知的障害の併存がよくあることを前提に考えれば、「知的」か「発達」かではなく、「発達の多様性」の一つとして「知的」・「発達」を同時に子どもを見ていくことが重要だと思えます。 精神医学の分野では世界保健機関(WHO)作成の「ICD」やアメリカ精神医学界が刊行した「DSM」の内容が障害の定義として利用されています。実は、これらの最新版では、「知的障害」と「発達障害」は一つの同じグループとしてまとめられています。医学的には、「身体障害」と「精神障害」の2つに大きく分けられ、精神障害の中に「知的障害」も位置づけられているのです。 日本では、「知的障害」と「精神障害」で、取得できる障害者手帳が異なります。知的障害では、「療育手帳」、発達障害の認定を受けた場合は「精神障害者保健福祉手帳」が交付されます。ですから、別々に考えることになれてしまっていますが、これは、日本の法制度の関係で生まれたものにすぎません。「知的障害」と「精神障害」という分け方が日本独自のモノなのです。 繰り返しになりますが、医学的には知的障害と発達障害は同じグループとされ同時に理解対応することが望ましいと考えられています。この2つは、日本で法制度が別々に整備されただけで、まったく別のように感じますが、実際には関連することが多いものです。 従って、最新の精神医学でもちいられるICD,DSMの診断分類では2つとも、知的障害(知的発達症)と発達障害が「神経発達症」という同じグループにまとめら...

日本で発達障害が増えている?その意味が示すモノ

小中学生の 8.8 %に「 発達障害」 の可能性あり。(文科省調査 2022年12月) この数値に基づけば、1クラスに3人程度、「発達の問題のある子どもがいる」ことになります。 21世紀に入り、発達障害者支援法のもと発達障害への支援を拡充してきたにもかかわらず、「特別支援級」や「通級(支援教室)」ではなく、「通常学級(普通級)」に発達の問題がある生徒が8.8%いると、先生たちが考えており、その数は調査をする度に増え続けています(前回調査は6.5%(2012))。 もちろんこの結果は、発達障害の「可能性」の話であり、必ずしも「発達障害者の児童数」ではないことを文科省は繰り返し説明をしています。しかしながら、「障害者数」でなくても、特別支援を用いなけらば対応できない数の子どもたちが現場に増え続けている日本の教育現場の事実に留意しなければなりません。 実際の「発達障害者数(診断数)」はどうでしょうか。 同じく文科省の調査(令和2年度 通級による指導実施状況調査結果 )によれば、2006年の時点で、発達障害者数のは全国で7000人足らずでした。しかし、そこから14年後の2020年には、発達障害者の数は9万人を越えました。数字だけで見れば、この14年間で発達障害者数は14倍に増えました。 少子化で子どもが減る中で、発達障害者の子どもの数も、発達の可能性のある子どもの数も増え続けていることになります。 その理由はいくつか考えられます。 一つは自閉症の疫学研究を踏まえると、昔は見逃されていた知的障害がないタイプの自閉スペクトラム症が、見つかりやすくなってきているためかもしれません。そのため、専門家からすれば、驚く数ではないという人も多数います。 政府の支援施策により、発達障害に対する理解や認識が進んできたことも一つの要因と言えるでしょう。 以前は「なんとなく手のかかる子」程度と考えていたことが、「発達障害」という認知がすすんだことで、実際に相談や受診をする児童が増えました。また、福祉サービスの充実に伴い、診断をもらうことへメリットを感じる人が増えたからかもしれません。 また、そもそも子どもたちの多くは医学的診断基準を基づく「発達障害」ではなく、発達障害の状態を示している「発達障害もどき」であるという意見もありますし、誤診・過剰診断が増えているのではないかという指摘もあります。 し...

心理検査② IQ(知能)だけが検査ではない

発達の問題に気づくタイミングは、ご家庭によって様々です。乳幼児検査で指摘されることもありますが、もう少し大きくなって親御さんが子どもと関わる際、違和感や悩みが生じてから、あるいは、園や学校の先生からの指摘で気づかされることも多々あります。そのときになって「発達が気になる」などの情報をネット検索しはじめると「遅れ」や「障害」のワードを目にすることも多く、不安にかられることでしょう。そのような言葉を受け止め理解し、支援に活かしていくのは、簡単なことではありません。そのためにも、出来る限り早期に、しっかりとした検査と専門家の支援を受けることが大切です。 日本では一般的に、1歳になるまでに数回、1歳半、3歳の時に乳幼児検診が実施されています。検診では、身体測定の他に「運動発達の遅れ」や「言葉の遅れ」などの発達も確認されます。地域差もありますが、発達に詳しい医師や保健師が担当している場合は、1歳半の時点で「知的障害」がある程度把握され、「自閉症スペクトラム症」も1歳半で気づかれることが大半です。ただ最近問題になっている「境界知能」は気づかれない場合もあるようです。 このように1歳半の時点で、発達の遅れに気づくことがあるわけですが、この段階では、親の方がピンときていないことが多いとも言われます。もちろん乳幼児期の発達には個人差もあります。ただし、いずれ追いつくだろう、という風に考えるよりも「発達が気になる」と指摘されたり、少しでも親御さんに気になることがあったりすれば、保健センターなどでフォローアップを受けることが重要です。発達専門医によると、実際は、親の方で「特に問題ない」と判断し、繋がらない場合も多いと言われています。 親が現時点で、「問題ないだろう」「今はそこまで必要ないだろう」と判断するのではなく、「支援が必要そうであれば、まずは受けてみる」という姿勢で臨むことがポイントです。 子どもの「発達特性」を見ていく上で、必要な検査についてお話しします。 「心理検査」と表現しましたが、「心理検査」は「発達」、「知能」、「人格」、「認知機能」、「心理状態」の検査の総称です。検査は、「知能(IQ)検査」だけでなく、検査方法にも様々あることを知っておくといいでしょう。検査に際しては、専門家が「検査バッテリー」というものを組んで、お子様に必要な検査の組み合わせを提案してくれます。多様な...

心理検査① 子どもの特性を知ることはネガティヴなことではありません。

 皆さんは「心理検査」を受けたことがありますでしょうか。 「占い」や「性格診断」だったらどうでしょうか。多くの方が、きっと試したことがあるでしょう。自分のこと、あるいは、好きな相手のことや未来を知りたいというのは、誰しもあることですし、ネットや本の「占い」の内容や「性格診断テスト」のアドバイスに従って実際に行動したことがあるのではないでしょうか。 「心理検査」は自分自身やお子様の特性を知る方法として、占いや巷の性格診断テストよりは精度の高いアカデミックな根拠に基づいて作られています。ですから、お子様の理解を深め、どのような教育やサポートが必要なのかを知る手がかりになります。「特性」を知ることはネガティヴなことではないと考えてください。 日本で「心理検査」を受けるというのは、「障害」の診断と関わる時と捉える場合が多いためネガティヴに受け取られる場合が多いのですが、そんなことは決してありません。人間には誰しも得意・不得意があります。能力には凸凹と限界があります。学べば誰もができるわけでななく、できないことに時間をかけて自分を追い込まないことが大切です。診断の有無にかかわらず、全ての人が自分の特性にあわせて、何かを諦めることは必要であり、自分に合ったことに時間をかけることの方が人生には重要です。 自分の特徴を理解することは誰にとっても重要なことなのですから、「検査」をうけることをポジティヴに受け取り、共有していくことが大切です。 もし様々な事情から支援機関等で「心理検査」のお話に繋がることがあれば、積極的に利用するといいでしょう。自治体によっては、検査の順番待ちなどで半年や1年待たされる場合もありますので、早めに予約をとることが大切です。中々機会が得られなかったり、「心理検査」の話が出ない場合は、自身で受けられる機関を探して受けるのもいいでしょう。 私たちGieriでは、「障害」の有無ではなく、その人の特性を知るために一般に医療機関等でなされる「心理検査」だけでなく様々な検査をすることを提案してます。 以下も参考にしてみてください。 知能検査ではわからない、大切な能力 ■■■■■■■■■■ お問い合せや相談 ■■■■■■■■■■ Gifted International Education Research Institute ギフティッド国際教育研究センター H...

応用行動分析(ABA)は「ふつう」の子にも利用できますか。

7月にとある心理研究機関で、学校心理士資格更新研修のセミナー講師をしました。発達特性と不登校に関わるお話をさせていただいたところ、以下のような質問があり、回答しましたので、掲載します。私自身は、行動分析の利用の限界が現場で多々みられるようになっており、ポリヴェーガル理論などを参考に対応されるのがいいと感じていますが、ご参考になれば。 ■学校の先生からの質問 私の所属する教育委員会では、発達特性があるなしにかかわらず、学校を休んだ際は、家庭で何をしているのかの機能分析をしています。機能分析を行い、家庭で過ごす時よりも登校したくなるような天秤を作りながら、不登校に対する支援を進めています。 機能分析を行うに当たり、不登校の原因にいじめがないこと、対象児の年齢が小学生以下であること、比較的不登校の期間が長期化していないこと等の条件をもうけています。 私が関わらせていただいた事例のお子さんも、発達特性はなく、ごく普通の小学生でした。石川先生がお話しくださった行動分析のアプローチは、発達特性のあるなしに関係なく有効ですか?教えていただけるとありがたいです。 ■私からの回答 丁寧なご感想及びご質問をいただき、誠にありがとうございます。 端的にお答えしますと、行動分析の手法は「いわゆる発達特性のあるなしに関係なく」有効です。 一般に「応用行動分析」という形で、教育の場に浸透していますが、この手法の根っこにあるのは「行動主義」の考え方です。 行動主義では、「心」という曖昧なものを排除し、心は「行動」に還元されると考えます。 「行動」の集積が、「心」を形成していると捉えることで、「心」の存在を実体として取り扱う難題から解放されることになりました。 この考え方が「心の哲学」において「真」であるかはともかく、心を「行動」だけで捉えることで、「心」の解釈の深みにはまることなく、相手への対応ができるのが、「行動主義」の考え方を教育現場で採用する最大のメリットになっています。 ただ行動主義自体は、本来、人間一般の心を探る一つの方法なので、発達障害に限定されるものではありません。 先生は、「かゆい」と「痛い」を別物と考えますでしょうか?実験心理では、「刺激」として同一にとらえます。 泣きながら口を開けている子鳥に母鳥が餌をあたえる姿に「愛情」を感じるでしょうか?「愛」などなく刺激と反応だけで説明...