【特集】「発達に特性のある子どもが、自分らしく学べる国 カナダ③

 「発達に特性のある子どもが“傷つかずに”学べる場所」
―日本との違いを知ってほしい

Aさんが語ってくれた言葉のなかで、特に印象的だったのがこの一言です。

「カナダの学校では、“できないこと”を叱られたことが、一度もないんです」

日本では、どれほど本人が頑張っても、「提出が遅い」「集中できない」「発言が的外れ」といった“ズレ”に対して注意されることがあります。もちろん教師の善意や努力もあるのですが、「周囲と同じ」であることが求められる文化が、結果として子どもを傷つけてしまうことも少なくありません。

Aさんの息子さんは、ASDとギフテッドの特性を併せ持ち、感覚過敏・強いこだわり・集団活動の難しさなど、いくつもの“生きづらさ”を抱えていました。

日本の学校では「協調性に欠ける」「発達検査を受けてみたら?」と言われることが増え、自信をなくし、不登校気味になっていったそうです。

そんななかで出会ったのが、カナダの私立校。入学にあたって提出した診断書をもとに、学校側はすぐに「どんな支援が必要か」「どの評価方法が合うか」を一緒に考えてくれました。

  • グループディスカッションが苦手 → 書面での論述評価へ変更

  • プレゼンでフリーズしてしまう → 先生と1対1での発表に切り替え

  • 感覚過敏で教室にいられない → 別室での個別対応も可

「“普通にできること”を前提にしていない。だから、“できないこと”を責められないんです」

さらに、Aさんが驚いたのは、本人の“納得”を重視する姿勢でした。

支援内容は学校側が一方的に決めるのではなく、必ず本人との面談を行い、「どうすれば無理なくできそうか」を一緒に相談しながら決めていくのだそうです。

「“できる・できない”じゃなく、“やってみようと思える形”にすることが目的なんですよね」

カナダでは、配慮を受けることは“恥”ではなく、“当然の権利”として扱われています。そして、その配慮が“頑張る力”や“達成感”を支える土台になっているのです。

“配慮してもらえるから頑張れる”――
日本では逆に、「頑張れる子にしか配慮が届かない」ことも少なくありません。

もし今、あなたのお子さんが「学校が苦しい」「自分はダメなんじゃないか」と感じているなら、一度“文化ごと違う学びの場”を知ってみること。それが、未来の選択肢を大きく広げてくれるかもしれません。


「この子が“研究者”になれる未来はありますか?」―カナダの大学進学とその後

Aさんの息子さんには、ある夢がありました。それは「数学の研究者になること」。

でも、日本では「成績に波がある」「協調性がない」といった理由で、その夢を現実にする道が遠ざかっていくように感じていたそうです。

カナダに来て変わったのは、“本人の力を正しく評価してもらえる環境”に出会えたことでした。

カナダの大学入試には、日本のような「一発勝負の筆記試験」は存在しません。
代わりに求められるのは:

  • 高校3年間の成績(GPA)

  • 推薦状やパーソナルエッセイ

  • 課外活動の実績

  • 語学スコア(IELTSやTOEFL)

つまり、“コツコツ取り組んだこと”がそのまま合否に直結するのです。

Aさんの息子さんは、プレゼンが苦手な代わりに、数理論理や証明課題には圧倒的な集中力を発揮しました。先生はその特性を理解し、論述・プロジェクト型の評価に重点を置いた課題設計をしてくれたそうです。

「できないところを評価しない。できる形に変えて、力を引き出してくれる」

そして何より、大学に入ったあとも、合理的配慮が継続されます。
例えば:

  • 試験時間の延長

  • 個室での試験受験

  • プレゼンの代替レポート提出

特性があっても、「できる形」で学び続けることが前提になっているのです。

「研究の世界に進むには、学力と意欲は必要。でも、それを“正しく測る環境”にいるかどうかが決定的に大きいんです」

Aさんは、今も息子さんの将来を確信しているわけではありません。
でも、“この子が本気を出せる場所”があるということだけは、誰よりも信じている――。

その環境に出会えたことが、研究者への第一歩だったのかもしれません。


「“普通”を手放した先に見えた親子の安心」
―カナダで変わった、わたしたちの“あたりまえ”

「“普通”に戻れるように…って、ずっと願ってたんです」

カナダに渡る前、Aさんは、何年もそう思い続けていたそうです。
学校に毎日通えるように。みんなと同じように発表できるように。テストで平均点くらい取れるように。先生に叱られないように。

「そのうち慣れる」「周りに合わせなきゃ」「できないと社会で困るよ」

そんな言葉を信じて、子どもを叱り、励まし、支え続けてきました。
でも、その中で――ふと気づいたんです。

「この子、もう“がんばること”に疲れてる」

学校から帰ってくると、部屋のすみにうずくまる。
朝になると「行きたくない」と涙を流す。
宿題が終わらないときは、消しゴムでノートを真っ黒にしてしまう。

「もしかしたら、“普通になること”をあきらめたほうが、この子は生きやすいんじゃないか」

そう思ったとき、初めて“別の選択肢”を探す決心がついたそうです。


そしてカナダへ。

最初の数ヶ月は不安だらけ。英語も話せない、環境も違う、制度もわからない。
でも、少しずつ日々が変わっていきました。

「先生が怒らないんだよ」
「遅れても『調子どう?』って聞いてくれるよ」
「プレゼンやらなくていいって。レポートでいいんだって」

――気づけば、息子さんは毎日、学校の話をしてくれるようになっていました。

評価されることが怖かった子が、自分の得意な数学を堂々と発表するようになった。
人と話すのが苦手だった子が、「この子の意見は面白い」と言ってくれる友人に出会った。
朝が起きられなかった子が、「今日は○○の授業だから行く」と言い出した。

Aさんは言います。

「“普通”をあきらめたことが、“この子がこの子らしく生きる”スタートでした」


今も課題はあります。
波もあります。不安もゼロではありません。
でも、あの頃のように「この子を変えなきゃ」と思い詰めることは、もうありません。

「この子がこの子であることを、誰も否定しない環境に出会えたこと。それが、私たち親子にとって一番の支えになりました」


子どもを「守る」から「信じる」へ。
普通を「目指す」から、「手放す」へ。
そんな心の転換が、親子を自由にしました。

「海外に行くのが正解だ」と言いたいのではありません。
ただ、「今の環境で苦しんでいるなら、こんな選択肢もあるよ」と伝えたかった。

そして願わくば、どの子も――
「自分のままで、いていい」と思える社会に出会えますように。

Aさんの経験が、そんな一歩を踏み出す誰かの背中を、やさしく押してくれることを願って。
このシリーズを締めくくります。



※この連載は、カナダで発達に特性のあるお子さんを育てながら、実際に留学を経験・支援している複数の保護者の声をもとに再構成しています。内容は個人の見解や2025年時点の状況を含むため、実際の制度や支援内容は地域・時期・学校によって異なる場合があります。最新情報については、弊社までお気軽にお問い合わせください。


■ お問い合せや相談 ■ Gifted International Education Research Institute ギフティッド国際教育研究センター HP:https://gieri-jp.com/
/////////////////////////////////////////


コメント

このブログの人気の投稿

「子育てジャーナル」のすすめ

心理検査② IQ(知能)だけが検査ではない

子どもの発達を考える「クリニック・病院」でできること