子育てジャーナルとラカン理論──「書くこと」が子育て支援になる理由

 🔹はじめに:なぜ「書くこと」が支援になるのか?

「子育てジャーナル」は、日々の子どもとの関わりや、自分の感情を記録することで、
自分自身と子どもとの関係を言葉を通して見つめ直すためのツールです。

この「書く」行為そのものが、実は精神分析の巨匠 ジャック・ラカン(Jacques Lacan)の理論と深く関わっています。

ラカン理論において、「言葉を使って自分を語ること」には、主体の変化を導く力があるとされています。


🔹ラカン理論の基礎:言葉と主体の関係

ラカンは、こう述べています:

「無意識は言語のように構造化されている
(L'inconscient est structuré comme un langage)」
――Lacan, Écrits, 1966

つまり、人の深層心理や不安・欲望は、感情だけでなく「言葉」のレベルで組み立てられているというのです。
そして、言葉で自分を語ること=自分の無意識や感情と向き合うことになります。


🔹子育てジャーナルがもたらす3つのラカン的効果

①【象徴化】:感情と出来事に「名前」を与える

ラカンは、子どもの成長において「象徴界への導入」が重要と考えました。
「怒ってしまった」「イライラした」という感情を、ただの反応ではなく“意味ある経験”として言葉にすることで、
親自身が「主体」として再構築されていきます。

「私=書く主体」として、親が自分を客観視できる構造が生まれます。


②【距離の創出】:「鏡像」ではなく「構造」で子どもを見る

ラカンは、人間がしばしば他者を「自分の延長」として見る幻想(鏡像段階)を警告しました。
ジャーナルを書くことで「子どもを自分の感情の投影ではなく、一人の存在として見つめる距離感」が育ちます。


③【語る=変わる】:主体が変容する契機となる

書くことは、ラカンにとって“語ること”の延長です。
言葉にすることで、自分の中の葛藤や思いが「構造化され」、新しい理解と変化が生まれます。

「語られたことは、すでに変化の始まりである」
――Lacan, Séminaire XI, 1964


🔹継続記録と転移の抑制:支援者に頼りすぎない構造

ラカン理論では、支援者(分析者)が幻想的に理想化されすぎると、転移(依存的感情)の危険が高まるとされます。
ジャーナルは、相談者が“自分の言葉で”自分の思考を追う時間を持つことで、支援者に依存せずに主体としての力を回復できます。


🔹実践における注意点

  • 書くことが「評価される」ためではなく、「自己理解」のためであることを明確にする

  • 書けない時期にも意味があると認める(=沈黙も象徴的な表現として扱う)

  • 支援者が「読む立場」になりすぎないようにする(あくまで書くことの主語は本人)


🔹まとめ:子育てジャーナルは、「主体のための構造的支援」

子育てジャーナルは、単なる記録や感情の吐き出しではなく、
ラカン理論に基づけば、主体の回復、象徴化、構造化された関係性の再構築を促す支援手段です。

子どもの育ちを見守ると同時に、親自身が自分の内面に言葉で触れていく──
そのプロセス自体が、親子関係を変え、より深く自由なつながりを生み出していくのです。



🔸参考文献・引用文献

  • Lacan, J. (1966). Écrits. Paris: Seuil.

  • Lacan, J. (1973). The Four Fundamental Concepts of Psychoanalysis. Seminaire XI. Trans. A. Sheridan.

  • フロイト=ラカン派の臨床入門(竹田青嗣, 2004, 筑摩書房)

  • 松木邦裕(2013)『ラカンの精神分析』岩崎学術出版社

  • 塚本周作(2020)『〈聞くこと〉から始まる支援』金剛出版

  • 石川大貴(2025)「子育てジャーナル」ギフティッド国際教育研究センターブログ


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