【GIERIカナダ教育視察レポート①】「個」を育む教育の真髄 — エルフィンストーン・セカンダリースクール

「個」を育む教育の真髄 — エルフィンストーン・セカンダリースクール



2024年10月、ギフティッド国際教育研究センター(GIERI)は、カナダ・BC州のギブソンズに位置するエルフィンストーン・セカンダリースクールを視察した。かつて州の高校ランキングでトップ50に入った実績を持つこの学校で目の当たりにしたのは、BC州が推進する現代的な教育カリキュラムの理念が、隅々にまで浸透している姿であった。それは、知識の暗記ではなく、「学び方」と「生き方」を教える教育の真髄に触れる経験であった。




教科の壁を越え、「生きる力」を育む授業

校内で見学した授業は、日本の「理科」「社会」といった教科の枠組みとは一線を画していた。「環境問題」といった学際的なプロジェクトテーマを軸に、科学的知見、社会的背景などを統合的に探究する**「プロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)」**が実践されていたのだ。これは、現実社会の複雑な課題に立ち向かうために必要な思考力やコミュニケーション能力といった「コア・コンピテンシー」を育むことを目的とする、BC州全体の教育方針を反映したものである。

また、キャリア教育の充実ぶりも目を見張るものがあった。卒業後の多様な進路選択について学ぶ授業が体系的に組まれ、専門のカウンセラーによる個別相談も頻繁に行われている。生徒一人ひとりが自身の未来を主体的に設計できるよう、学校が総力を挙げて支援する体制が構築されていた。学習に遅れが見られる生徒のための自習教室(ラーニング・アシスタンス・センター)も、カナダのインクルーシブ教育を象徴する場であった。



日本人留学生の視点から見える「教育ゴールの違い」

この学校には、都立高校の交換留学プログラムで学ぶ日本人高校2年生が在籍していた。彼女は、現地の進学校に通う生徒である。流暢な英語で語ってくれた彼女の悩みは、カナダと日本の教育の違いを鮮やかに映し出していた。

「英語の授業についていくのは本当に大変です。でも、数学や理科といった他の教科は、正直に言って非常に簡単に感じます。日本の大学受験を考えると、このままで大丈夫なのか、とても不安です。早く帰国して受験勉強に備えなければ…」

彼女のこの発言は、エルフィンストーンの教育レベルが低いことを意味するものではない。むしろ、両国の教育が目指すゴールの根本的な違いを示している。日本の進学校が「大学入試」という明確な目標に向けて知識の深度とスピードを追求するのに対し、カナダの公教育は、より広い生徒層を対象に、社会で生きるために必要な汎用的な能力の育成を重視する。彼女の不安は、異なるゴールを目指すシステムの中に身を置くことから生じる、必然的な葛藤なのである。

エルフィンストーンでの視察は、生徒一人ひとりのキャリア形成から学習支援、そして心のケアに至るまで、学校全体が一つの有機的な共同体として機能している姿を明らかにすると同時に、グローバルな教育を考える上で、各国の教育哲学の違いを深く理解することの重要性を改めて教えてくれた。


こちらも参考に↓

【GIERIカナダ教育視察レポート②】地域経済と共鳴する実践的教育 — チャテレック・セカンダリースクール

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