【GIERIカナダ教育視察レポート②】地域経済と共鳴する実践的教育 — チャテレック・セカンダリースクール
地域経済と共鳴する実践的教育 — チャテレック・セカンダリースクール
エルフィンストーンに続き、隣町シーシェルトに位置するチャテレック・セカンダリースクールを視察した。先住民族の生徒が約2割を占めるこの多様性豊かな学校では、地域社会のニーズと直結した、極めて実践的な教育が展開されている様子が明らかになった。
大学進学だけがゴールではない:技能職(Trades)への確かな眼差し
視察のハイライトの一つは、木工や金属加工(メタル)の授業であった。担当教員によれば、これらの授業は近年、生徒たちの間で絶大な人気を誇り、在学中に一度は履修したいと希望する生徒が後を絶たないという。学校側もその需要に応え、可能な限り多くの生徒が履修できるよう配慮している。
この背景には、カナダ全体で深刻化する熟練技能労働者(Skilled Trades)不足と、それに伴う社会的な価値観の変化がある。
教員は力強く語った。「大学へ行くことが、必ずしも全ての生徒にとって最良の、あるいは賢い選択とは限りません。特に、卒業後の就職を考えれば尚更です」。
この言葉は、単なる一個人の意見ではない。建設、林業、観光といった地域産業が経済の根幹をなすサンシャインコーストにおいて、大工や溶接工といった技能職は、地域に根差し、安定した高収入を得るための現実的かつ有望なキャリアパスなのである。大学で人文科学の博士号を取るよりも、溶接の資格を持つ方がはるかに有利だとメタルの教員は語っていた。
学問と、地に足のついた職業観。この二つを両立させようとする学校の哲学は、多様なバックグラウンドを持つ教員陣によっても支えられていた。
建築関連の授業を担当する教員は、かつて日本で伝統的な大工修行を積んだというユニークな経歴の持ち主であり、その経験は生徒たちに学問だけではない実践知の価値を伝えているに違いない。
このような考え方はサンシャインコーストの地域性だけでなく、カナダ全体についても見られる傾向である。4年間で多額の学費と生活費をかけて大学を卒業しても、専門性の低い学位では就職が難しい現実がある一方で、技能職はカレッジや専門学校で1〜2年学べば、すぐに高収入の仕事に就ける可能性があるの。この経済的な観点から「大学進学が必ずしも賢い選択ではない」という議論は、メディアや教育現場で日常的に交わされている。
そのために、学校側は多様な成功モデルの提示をおこなっている。 学校のカウンセラーは、生徒一人ひとりの適性に合わせて、大学(University)、カレッジ(College)、専門学校(Trade School)、就職、起業など、多様な進路の選択肢を提示するのが一般的である。
学校は学びの場であり、セーフティネットである
校内には、生徒が無料で自由に食べられるフルーツやパン、シリアルバーなどが常備されていた。これは「ミール・プログラム」と呼ばれる、カナダの学校では一般的な取り組みだ。家庭環境に関わらず、生徒が空腹によって学習機会を損なうことのないようにという、社会全体のセーフティネットが学校という場で機能している。チャテレックは、生徒の学力だけでなく、生活そのものを支えるインクルーシブなコミュニティであった。
学力と実践力、そして生活支援。これらが融合したチャテレックの姿は、地域社会と共鳴しながら生徒一人ひとりの多様な未来を育む、カナダ公教育の力強さを象徴していた。
こちらも参考に↓
【GIERIカナダ教育視察レポート①】地域経済と共鳴する実践的教育 — エルフィンストーン・セカンダリースクール
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