カナダ・ソーシャルエンタープライズ視察レポート Persephone Brewing Company訪問 — 多様性がイノベーションを生む現場から

Persephone Brewing Company訪問
— 多様性がイノベーションを生む現場から


はじめに

GIERIは、個々の才能と特性を最大限に引き出す教育のあり方を世界的に探求しています。その一環として、カナダ・ブリティッシュコロンビア州ギブソンズに拠点を置く「Persephone Brewing Company」を2024年10月に視察しました。

同社は、ビジネスの手法を用いて社会的課題の解決を目指す「ソーシャルエンタープライズ」です。私たちが、障害者雇用の現場、具体的には特例子会社のような視察先をを探していたところ紹介されたのが、この「ソーシャルエンタープライズ」でした。日本では馴染みがないかもしれませんが、利益追求を第一とするのではなく、事業を通じて地域コミュニティの活性化や障害者雇用といった社会的な目的(ソーシャルミッション)の達成を目指す組織を指します。健常者と障害者と分けない雇用という考え方がカナダらしさを感じました。

さらに同社は、環境や社会への配慮、透明性などに関する厳格な基準を満たした企業に与えられる国際的な認証制度「B Corp(Bコープ)」も取得しています。これは、株主の利益だけでなく、従業員、顧客、地域社会、環境といった全てのステークホルダーへの責任を果たす企業であることの証です。

今回、共同創業者であるブライアン・スミス氏と直接対話する貴重な機会を得て、同社の理念と実践が、ギフティッド教育、ひいては多様な個性が共生する社会の構築にいかに重要な示唆を与えるかを深く探ることができました。本レポートで、その内容を報告します。



創業者ブライアン・スミス氏との対話から見えた本質

今回の視察の核心は、創業者ブライアン・スミス氏との対話にありました。車椅子で穏やかに出迎えてくれたスミス氏は、ご自身の壮絶な体験から話を切り出されました。数年前に遭ったサイクリング中の事故により、ご自身が障害を持つ当事者となったこと。そして、その経験を通じて、自身が立ち上げたソーシャルエンタープライズが持つ本当の価値と可能性を、心の底から再認識したと語ります。

「健常者だった頃も、理念としてインクルージョンを掲げていました。しかし、当事者になって初めて、社会にある見えない壁や、人の温かさ、そして『違い』が持つ本当の力に気づかされた」

スミス氏の言葉には、困難を乗り越えた者だけが持つ静かな説得力が宿っていました。

Persephoneの事業モデルは、地域コミュニティとの徹底した対話の上に成り立っています。私が、「なぜビールなのか」と聞くと、その問いに対し、スミス氏は「当初はウイスキーも考えた」と明かしてくれました。しかし、地域住民との議論の中で、「アルコール依存症の問題を生む可能性があるものは、我々の目指すコミュニティの姿ではない」という結論に至り、人々が集い、語らう文化を育む「クラフトビール」を選んだと言うのです。この意思決定プロセスそのものが、同社の理念を象徴しています。

最も感銘を受けたのは、障害を持つ従業員の役割についての考え方です。彼は、彼ら彼女らを単なる労働力としてではなく、イノベーションの源泉として捉えていました。

「彼らの視点、健常者とは全く異なる発想が、私たちの看板商品やユニークな企画を生み出してきました。思いがけないアイデアは、いつだって『違い』から生まれるのです」

この言葉は、GIERIがギフティッドという「違い」を持つ子どもたちと向き合う上で、根幹となる哲学と深く共鳴するものでした。



ギフティッド教育への示唆

Persephoneの在り方は、ギフティッド教育が目指すべき一つの理想形を示唆しています。

  1. 「違い」を価値創造の源泉と捉える環境:

     ギフティッドの子どもたちは、その思考の速さや独特の感性から、時に孤立感を抱えることがあります。Persephoneが障害者の視点を新しいビールのアイデアや企画に繋げているように、教育現場もまた、ギフティッドの「違い」を課題としてではなく、新たな価値を創造する才能として捉え、そのための環境を能動的に構築する必要があります。

  2. 対話を通じたコミュニティ形成:

     事業内容を地域住民との対話で決定したプロセスは、教育においても重要です。子どもたち一人ひとりの興味や関心、そして保護者や地域社会の声を丁寧に拾い上げ、共に学びの場を創り上げていく。そうした対話的なアプローチこそが、真にインクルーシブな教育コミュニティを育む鍵となります。

  3. 実社会と接続した学び:

    私たちは、敷地内にあるキッチンカーでハンバーガーを味わい、様々な種類のビールを試飲しました。農園でホップが育ち、それがビールになり、人々が集う。この一連の流れは、学びが机上の空論ではなく、人々の生活や喜びに直結していることを実感させてくれます。ギフティッドの子どもたちの高度な知的好奇心もまた、こうしたリアルな社会課題や価値創造の文脈と接続することで、より一層輝きを増すはずです。






まとめ

Persephone Brewing Companyは、単なるビール醸造所ではありませんでした。そこは、多様な人々が互いの「違い」を尊重し、それを力に変えながら、地域と共に未来を醸成していくインクルーシブなコミュニティそのものでした。

創業者ブライアン・スミス氏の逆境から得た深い洞察と、それを事業として昇華させている実践は、GIERIが進むべき道を力強く照らし出してくれています。

私たちは、一人ひとりの「違い」が、予測不能で素晴らしい未来を創り出す原動力であると確信し、これからも教育という場でその可能性を追求し続けてまいります。


こちらも参考に↓

【GIERIカナダ教育視察レポート②】地域経済と共鳴する実践的教育 — チャテレック・セカンダリースクール

【GIERIカナダ教育視察レポート①】地域経済と共鳴する実践的教育 — エルフィンストーン・セカンダリースクール

【GIERIカナダ教育視察レポート③】「みんな一緒」じゃなくてもいい学びの形とは?カナダの公立小学校で見た、驚きと発見の記録

カナダ・ソーシャルエンタープライズ視察レポート

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