障害者トライアル雇用の「落とし穴」。主観的評価と前日通告が許される制度のままで良いのか?
障害者雇用において広く活用されている「障害者トライアル雇用制度」。
これは、障害のある方が原則3ヶ月間(精神障害者等の場合は最大6〜12ヶ月)、お試し期間として企業で働き、その間に適性や業務遂行の可能性を見極め、双方合意の上で常用雇用(本採用)への移行を目指す制度です。企業にとっても労働者にとっても、ミスマッチを防ぐための重要なステップとなっています。
しかし、就労支援や定着コンサルティングの最前線に立つと、現在の運用ルールが、必ずしも「働く障害者の心と生活」を守り切れていない現実に直面することがあります。
■ ある若者のケース:満了直前の「本採用見送り」通告
先日、私が定着支援を担当している発達特性を持つ若者のケースです。彼は大手企業にて、6ヶ月間のトライアル雇用として勤務していました。半年間、一度も投げ出すことなく必死に業務に向き合い、目に見える成果も出していました。しかし、最終的に企業は「本採用見送り」の決断を下しました。
問題は、その「通告のタイミング」でした。企業側から「契約満了となる月末で終了とする」と通達があったのは、なんと期間満了のわずか数日前だったのです。
管轄のハローワークに確認を入れたところ、「トライアル雇用の期間満了による終了の場合、制度上、前日や当日の通告であっても法的な問題(罰則)はない」とのことでした。ただ、担当者は「とはいえ、大手企業であれば、本人の生活や今後のことへの配慮として、1ヶ月前に書面で通知することが望ましい」とも苦言を呈していました。当日・前日の告知でトラブルも起きているとも話されました。
■ 企業側のジレンマ:「1ヶ月前通告」の難しさと親心
もちろん、企業側の事情も深く理解できます。 もし「あと1ヶ月でトライアル終了(不採用)です」と事前に伝えてしまった場合、本人のモチベーションが著しく低下し、残りの1ヶ月間をトラブルなく継続して働けるのか、現場が不安を抱くのは当然のことです。 また、「ギリギリまで成長を見守り、なんとか本採用のチャンスを与えたい」という現場の恩情や期待があるからこそ、最終的なジャッジが満了日直前までずれ込んでしまうケースも多いはずです。
しかし、発達特性を持つ方々にとって、「急な予定の変更」や「突然の環境の喪失」は、私たちが想像する以上のパニックと深い絶望をもたらします。罰則がないからといって、生活の糧を失う通告を直前に行う運用は、あまりにもハイリスクです。
■ 主観的評価からの脱却。ルーブリック(評価基準表)導入の提言
今回のケースを通じて私が最も強く感じた課題は、企業側の評価が極めて「定性的」であり、現場の主観に大きく左右されているという点です。「なんとなく空気が読めない」「暗黙のビジネスマナーが足りない」といった言語化しにくい定性評価で判断が下されると、本人は「なぜダメだったのか」を客観的に理解できません。
これを防ぎ、企業と労働者の双方を守るためには、事前に「どのような基準を満たせば本採用になるのか」という条件を書面で明確に提示し、ルーブリック(評価基準表)を用いて評価を行うことが強く望まれます。
主観や現場の「空気感」で評価を下すのではなく、可視化されたルーブリックに基づく定期的なフィードバックがあれば、本人も自身の現在地を把握できます。万が一ミスマッチが起きた際も、「この基準には達しなかったが、ここは成長できた」と納得しやすく、次の就労へ向けた明確なデータとして持ち帰ることができるのです。
■ 障害者雇用は「生活と人生」に直結している
今回の若者は、我々支援者が間に入り、企業側と粘り強く調整と対話を行ったことで、ご家族の素晴らしいサポートもあり、「悔しいけれど、半年間逃げずに頑張れた」と円満な卒業を迎えることができました。
「制度上問題ない」で片付けるのではなく、明確な評価基準(ルーブリック)の導入と、労働者の生活に配慮した通知ガイドラインの整備が急務です。企業と労働者、双方が納得し、たとえ結果が不採用であったとしても「次のステップ」へ前向きに進める。そんな真の意味での「トライアル(挑戦)」を支える制度へと改善されていくことを、現場の人間として強く望みます。
(執筆者:GIERI代表 石川大貴)

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