「誰にも言えなかった、あの子のSOS」~ギフテッド/2Eの子どもと家族の物語~第4話:「もう書けない…」机に爪を立てた息子。
一通のSOSメールが、親子の世界を変えた日
「助けてください。息子が、もう限界です。そして、私も…」
GIERIの受信箱にそのメールが届いたのは、夏の終わりのことでした。差出人は、小学5年生の息子さんを持つお母さま。文面は、冷静さを装いながらも、その一行一行から悲鳴が聞こえてくるようでした。
「声もなく涙を流しながら、机や自分の腕に爪を立てている息子を見て、どうすればいいのか…」
数週間前まで、知的好奇心にあふれ、快活だったはずの我が子が、なぜ。 これは、突然訪れた「書けない」という困難をきっかけに、不登校という暗いトンネルに入り込んでしまった親子が、専門家との対話を通じて希望の光を見出すまでの、実話に基づいた物語です。
【突然、鉛筆が持てなくなった日】 ソウタさん(仮名・10歳)の異変は、本当に突然のことでした。
夏休みの宿題に取り組んでいた時、彼の手がぴたりと止まったのです。 「どうしたの?」 その問いに、ソウタさんは顔を上げることなく、一言だけ絞り出しました。 「…うまく、書けない」
その日から、彼の世界は一変しました。あれほど好きだった本も読まなくなり、学校の話題を避けるように。そして新学期が始まると、彼は玄関の前で動けなくなってしまいました。
無理に連れて行こうとすれば、パニックを起こす。休ませれば、罪悪感からか、部屋の隅で膝を抱えている。お母さまは心身ともに疲弊し、出口の見えない日々に、ただただ途方に暮れていました。
何が、この子をここまで追い詰めているのか。 藁にもすがる思いで送ったのが、GIERIへの一通の相談メールだったのです。
【GIERIからの返信:それは「わがまま」ではなく「悲鳴」です】
私たちは、お母さまのメールから、ソウタさんが発しているSOSを慎重に読み解きました。そして、バラバラに見えた彼の問題行動を、一つのキーワードで繋ぎ合わせました。
それは「2E(Twice-Exceptional)」という特性です。
私たちは、比喩を使ってこうお伝えしました。 「息子さんは、F1マシンのように超高性能なエンジンと、極めて繊細なセンサーを同時に搭載した車のような状態です。素晴らしい加速力(知性)を持つ一方で、少しの路面の変化(感覚の刺激)にも激しく反応してしまうのです」
ソウタさんの中で起きていたのは、こういうことでした。
「書字困難(ディスグラフィア)」: 彼の脳は、文字の形を認識し、それを手の筋肉に伝達するプロセスに、人には見えない大きなエネルギーを消耗していました。「書けない」のは、怠けているからではなかったのです。
「感覚過敏」: 教室のざわめき、蛍光灯の光、給食の匂い。一つひとつが、彼の繊細なセンサーを刺激し、エネルギーを奪っていました。
書けない苦痛と、学校にいるだけで疲弊する感覚。その二重苦が、彼から学ぶ意欲と元気を奪っていたのです。
【「診断」はレッテルではなく、「パスポート」になる】 私たちはさらに、検査や診断を受けることへの不安を抱えるお母さまに、こうお伝えしました。
「これは、お子さんにレッテルを貼る作業ではありません。海外へ行くために、自分の国籍を証明するパスポートを手に入れるようなものです。そして、目的地まで迷わず進むための羅針盤を手に入れるプロセスなのです」
この言葉に、お母さまは「目の前が拓けるようだった」と仰います。
【感謝の返信:「プリントアウトして、何度も読み返しています」】 私たちの返信を読んだお母さまから、すぐにメールが届きました。そこには、驚きと、安堵と、確かな希望が綴られていました。
「まさに、息子の状況そのもので、驚きと感謝でいっぱいです。プリントアウトして、何度も読み返しております。少しでも早く、今の辛い状況から本人が光を見出せるように、親子で進んでいきたいと思います」
たった2往復のメール。しかしそれは、孤独な暗闇の中にいた親子にとって、進むべき道を照らす一条の光となりました。
今、ソウタさんとお母さまは、専門機関での検査を受け、学校と「合理的配慮」について対話を始める準備をしています。その表情は、以前とは比べ物にならないほど、穏やかです。
もしあなたが、お子さんの不可解な行動に悩み、一人で答えを探し続けているのなら。 どうか、その悩みを打ち明ける勇気を持ってください。
あなたの「助けて」の一言が、お子さんとあなた自身の未来を、大きく変える最初の一歩になるかもしれません。
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