「誰にも言えなかった、あの子のSOS」~ギフテッド/2Eの子どもと家族の物語~第5話(最終話):

「教科書1ページに1時間」かかった私が見つけた、
数学という”故郷”

 もし、あなたのお子さんが、他の子とは違うスピード、違う道筋で学んでいたとしたら。 私たちはつい、「普通」のレールに戻そうと焦ってしまうかもしれません。

今回ご紹介するのは、私たちの社会が用意した「普通」という名のレールから、何度も何度も外れ、20年以上もの間、暗闇の中を歩き続けた一人の女性、カナデさん(仮名)の物語です。

国語の教科書を読むのに1時間かかっていた彼女が、なぜ国際的な数学研究者を志すようになったのか。 その壮大な回り道は、「才能の開花に、”遅すぎる”ということは決してない」という、力強い希望を私たちに教えてくれます。

【”ちぐはぐ”だった子供時代】 

カナデさんは、幼い頃から独創的な子どもでした。まだ文字もおぼつかないうちから、自分で物語と絵をかき、製本までして「私の本です」と近所の本屋さんに持ち込むような、ユニークな発想力の持ち主でした。

しかし、小学校に上がると、彼女の”ちぐはぐ”な奮闘が始まります。

  • 「できる」こと: 図形問題やパズルは、誰よりも早く、独創的な方法で解いてしまう。一度見た風景や物の構造を、驚くほど正確に記憶している。

  • 「できない」こと: 国語の教科書を読むだけで、どっと疲れてしまう。文字が頭に入ってこない。板書をノートに書き写すのが、どうしても間に合わない。

「やればできるはずなのに、なぜ国語だけ…」 周囲の期待と、できない現実のギャップ。その理由は誰にも分からないまま、彼女は「国語が苦手な、少し変わった子」として、思春期を過ごすことになります。

【5年間の暗黒期と、一枚の”診断書”】

彼女の本当の苦悩が始まったのは、大学受験でした。教育熱心な家庭の期待を背負い、最難関国立大学の法学部を目指すことになったのです。

それは、彼女の特性とは正反対の、膨大な文章を正確に、速く読み解く能力が求められる世界でした。

結果は、5年間、実を結びませんでした。 「努力が足りない」「甘えている」 自分を責め続け、心身ともに限界を迎えた彼女は、ある日、精神科の扉を叩きます。そして、20数年という時を経て、ようやく自分の”ちぐはぐ”の正体を知ることになるのです。

診断名は、**ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD、そしてLD(学習障害)の一種であるディスレクシア(読字障害)**でした。

文字がスムーズに読めなかったのは、努力不足ではなかった。 それは、脳の特性でした。 この診断書は、彼女にとって「障害者」のレッテルではなく、人生で初めて手にした、**自分自身の「取り扱い説明書」**だったのです。

【数学という”故郷”への帰還】 

「取り扱い説明書」を手に入れたカナデさんは、人生のコンパスを大きく切り替えました。 苦手な「読む」「書く」で戦うことをやめ、幼い頃から得意だった、自分の”故郷”へと帰る決心をしたのです。

それが、数学の世界でした。

社会人入試を経て、理系の大学に入学。そこは、彼女にとって天国のような場所でした。

  • テストでは、音声読み上げソフトの使用が許可された。

  • レポートは、手書きではなくPCでの提出が認められた。

  • 何より、「数式」という、世界共通の美しい言語で思考し、対話できる仲間がいた。

「合理的配慮」というサポートを得て、水を得た魚のように数学の研究に没頭した彼女の才能は、一気に開花します。

「やっと、自分の得意なことに集中できる場所を見つけられました」 そう語る彼女の笑顔は、長いトンネルを抜けた人の、晴れやかな光に満ちていました。彼女は今、海外の大学院でさらに数学を深く探究するという、新たな夢に向かって歩み始めています。

【このシリーズを読んでくださったあなたへ】

全5話にわたり、子どもたちとご家族の物語をお届けしてきました。

彼らの物語は、私たちに問いかけます。 「普通」とは、誰が決めたものなのか。 「成功」への道は、本当に一つだけなのか。

もし、あなたのお子さんが、今は少しだけ回り道をしているように見えても、どうか焦らないでください。その道中で経験すること、感じることすべてが、その子だけのユニークな才能を形作る、かけがえのないピースです。

GIERIは、すべての親子が、自分だけの「取り扱い説明書」を手にし、自分だけの地図を描くための、最高のパートナーでありたいと願っています。

長い物語にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。


コチラも是非読んでみてください⬇

「誰にも言えなかった、あの子のSOS」
~ギフテッド/2Eの子どもと家族の物語~

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