【学会報告③】「葛藤」は成熟への通過儀礼か — 事例研究から考える、ギフテッドの内面的成長と支援の在り方

 学会レポート第3弾となる今回は、私が参加した口頭発表のセッション「事例研究・保護者教員支援」について取り上げます。

このセッションでは、土居綾美氏、佐藤里美氏、塚田茉友氏、樋口優子氏の4名による発表が行われました。いずれも興味深い内容でしたが、今回は特に、会場から多くの質問が寄せられ、私自身も支援者として深く考えさせられた土居綾美氏(Co-Ring)の発表「現代日本社会の特殊性をめぐる“葛藤”を契機としたエンパワメント」を中心に、GIERIとしての視座を交えてお伝えします。


「生きづらさ」の先にある「葛藤」とは何か

土居氏の発表は、日本特有の「世間(世間体・同調圧力)」という社会構造の中で、ギフテッド当事者がいかにしてエンパワメント(力を獲得)していくか、というテーマでした。

彼女の定義で非常に重要だったのは、「生きづらさ」と「葛藤」の区別です。

  • 生きづらさ: 問題に対して選択肢や解決策が見出せていない状態。

  • 葛藤(Kattou): 問題に対して選択肢が見出せており、その中で迷っている状態。

日本人は「葛藤」を避けて同調する傾向がありますが、彼女は成人当事者の事例を通じ、「葛藤と向き合い、悩み抜くプロセスこそが、自分らしい生き方を獲得する(エンパワメント)契機になる」**と結論づけました。

発表後、会場からは多くの質問が飛び交いました。その熱気は、単なる学術的な関心を超え、多くの当事者や保護者が「今のこの苦しみをどう解決すればいいのか」「この悩みに意味はあるのか」という“出口”を切実に求めていることの表れのように感じられました。


GIERI視点:「心理的な葛藤」と「成熟」の問題

質疑応答の中で、「ドンブロスキの肯定的分離理論(TPD)における葛藤との関連は?」という鋭い質問がありました。

ここが、私が今回最も強調したいポイントです。

土居氏の発表では、主に「日本社会(世間) vs 個人」という社会的な文脈での葛藤に焦点が当てられていました。しかし、不登校やひきこもりの支援現場にいる私からすると、もっと「心理的・内面的な葛藤」そのものを丁寧に扱うべきだったのではないかと感じています。

ドンブロスキの理論が示唆するように、知能が高く感受性の強いギフテッドは、社会との摩擦だけでなく、自分自身の内面で激しい葛藤(Disintegration)を起こします。「自分は何者か」「なぜ世界はこうなのか」「理想と現実のギャップ」——。

これは、単に社会に適合できるかどうかという話を超えた、「人間の成熟(Maturity)」に関わる普遍的な課題です。

私が普段接している「高知能のひきこもり」の方々も、まさにこの深い葛藤の中にいます。社会的な同調圧力への反発もありますが、それ以上に、自らの高い知性と感性が引き起こす内的な嵐の中で、次の自我を再構築しようともがいているのです。

今回の学会でこのテーマに多くの関心が集まったことは、ギフテッド支援が単なる学習支援や環境調整にとどまらず、「いかにして葛藤を乗り越え、精神的に成熟していくか」という心理的・実存的な支援へと深まっていく必要性を示しているのではないでしょうか。

具体的な支援ツールへの希望

また、同セッションでは、葛藤を乗り越えるための具体的な「足場かけ(Scaffolding)」となる実践も紹介されました。

  • 佐藤里美氏(JAIST)の「日記に基づく介入研究」: 2Eの生徒が、日記を通じて自分の感情や出来事を客観視(メタ認知)し、自己調整学習(SRL)を身につけていくプロセスは、まさに「内面的な葛藤」を言語化し、整理する有効な手立てです。

  • 樋口優子氏(ギフテッド応援隊)の「サポートブック」: 保護者と教員の間の認識のズレ(葛藤)を解消し、建設的なパートナーシップを築くための共通言語ツールとして、非常に実践的でした。


結びに

「葛藤」は辛いものです。しかし、それは決して無駄な痛みではありません。 その痛みこそが、その人がより高く、より深く人間として成長するためのエンジンになり得る——。

今回のセッションを通じて、私たちGIERIも、安易に「葛藤を取り除く」だけの支援ではなく、「葛藤を抱えながらも、それを糧に成熟していく伴走者」でありたいという思いを新たにしました。


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