【学会報告⑥】教室で「暇」にさせない! — 北欧の知見と日本の現場をつなぐ、通常学級でのギフテッド支援

 学会報告第6弾は、高知大学の是永かな子先生による発表「日本ギフテッド・2E学会におけるギフテッド・2Eとは」を取り上げます。

是永先生とは、以前フィンランドの研究チームが日本のギフテッド教育現場を調査された際に、私がインタビュー協力や資料提供を行ったご縁があります。北欧の教育事情に精通され、年間200校もの学校現場を回られている先生ならではの、「教室の中のリアル」に根ざした提言は、非常に説得力がありました。

今回は、是永先生の発表から見えた「通常学級の中で実現する、多様な子どもたちの居場所づくり」についてお伝えします。

今回の発表では、北欧の事例と日本の現状を照らし合わせながら、「特別支援教育(Special Needs Education)」の文脈でギフテッド・2Eをどう捉え、学校現場でどう支えていくかについて、熱く語ってくださいました。


1. 「ニーズ」があれば、それは支援の対象である

是永先生はまず、1994年のサラマンカ宣言(ユネスコ)で提唱された「特別ニーズ教育」の原点に立ち返る重要性を指摘されました。

日本の特別支援教育は障害児教育の流れを汲んでいるため、どうしても「障害があるかないか」に目が向きがちです。しかし、本来の「特別ニーズ教育」とは、「通常のカリキュラムや指導法では教育を受ける権利が保障されない、特別なニーズを持つすべての子ども」を対象とするものです。

つまり、障害の有無にかかわらず、「授業が簡単すぎて暇で苦痛を感じているギフテッド(2E含む)」もまた、明確な教育的ニーズを持っており、支援の対象となるべきだという視点です。



2. スウェーデンの教室から学ぶ「個別最適な学び」

発表では、スウェーデンの教室風景が紹介されました。 そこでは、授業の前半は「協同的な学び」でクラス全員が関わり合い、後半は「個別最適な学び」として、一人ひとりが自分の課題に取り組んでいました。

  • 適応機能が高いギフテッドの子: 友だちに教えたり、リーダー役を担ったりする(協同性)。

  • 2E(ギフテッド+ADHDなど)の子: 自分のペースで、ICT教材を使って高度な課題に没頭する(個別性)。

このように、同じ教室の中にいながら、それぞれが自分の特性に合った学び方を選択できる環境。これこそが、日本が目指すべき「インクルーシブなギフテッド教育」の姿ではないでしょうか。


3. 日本の教室で今すぐできること:「暇にさせない」工夫

是永先生は、日本の学習指導要領改訂の議論にも触れつつ、現場の先生方に「暇にさせない授業づくり」を提案されました。

日本の教室でも、すでに「わかってしまって暇」な子がいます。その子たちを「勝手なことをするな」と叱るのではなく、「学びの空白(暇)」を埋めるポジティブな選択肢を用意するのです。

  • 「早く終わったら、自分で問題を作っていいよ」(作問)

  • 「この単元に関連するなら、図鑑や専門書を読んでもいいよ」

  • 「1分間、みんなの前で豆知識(トリビア)を発表していいよ」

これらは、特別な予算や制度がなくても、先生の「環境を保障する」という意識一つで明日からでも始められます。


4. ラベルではなく、その瞬間の「状態」を見る

最後に印象的だったのは、「レッテル貼りではなく、その瞬間の状態を見る」という言葉です。

「この子はギフテッドだから特別」と固定化するのではなく、
「あ、今この子は算数のこの単元はわかっちゃって暇そうだな。じゃあ発展課題を渡そう」 「図形は得意だけど計算は苦手だな。じゃあ計算はゆっくりやろう」

そうやって、その時々のニーズ(困り感や退屈感)に合わせて柔軟に支援を変えていく。 それこそが、是永先生が提唱する、2.3%の「特異な才能」だけでなく、クラスの1〜2割に存在する「マイルドなギフテッド的ニーズ」を持つ子どもたちをも救う道なのだと感じました。


GIERI代表としての所感

是永先生の発表は、制度論にとどまらず、「明日の教室をどうするか」という現場への具体的なエールに満ちていました。

私たちGIERIも、学校外の機関ではありますが、学校の先生方がこうした柔軟な環境づくりに挑戦できるよう、外部からサポートできることは何かを常に考え、連携していきたいと思います。

次回は、学会全体の締めくくりとして、これからの日本のギフテッド・2E支援に向けた私の想いを綴ります。


【発表内容の記載について】 
掲載している内容は、当日の発表を筆者が解釈・要約したものです。不明瞭な箇所や発言の意図を完全に汲み取れていない可能性があり、実際の発言内容と認識の齟齬が生じる場合があることを予めご了承ください。


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