【参加報告】東京都精神保健福祉研修「大人の発達障害について」

 ~医療的支援の最前線と、ギフティッド支援における「環境調整」の重要性~


少し前のことになりますが、2025年7月18日、東京都精神保健福祉研修として開催された「大人の発達障害について ―理解し支援するために―」に参加いたしました。 講師は、昭和大学烏山病院・昭和医科大学発達障害医療研究所の太田晴久先生です。

本記事では、研修で語られた「大人の発達障害」の最新知見をまとめるとともに、私たちGIERI(ギフティッド国際教育研究センター)の視点から、ギフティッドや2E(Twice-Exceptional:二重の特別支援を要する)の方々への支援にどう活かすべきかを考察します。


1. 研修の重要ポイント:大人の発達障害のリアル

今回の講義では、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動性障害)の基礎から、就労・学業での課題、そしてひきこもりとの関連まで、包括的な解説がなされました。特に印象的だった点を共有します。

①「治す」のではなく「調整する」

発達障害は「病気」ではなく、生まれつきの脳機能の特性です。そのため、治療のゴールは「障害を消すこと」ではありません。 太田先生は、「環境調整」「本人の特性理解(自己理解)」によって、社会適応能力を向上させることが支援の核心であると強調されました。

② 能力のアンバランスと「強み」

資料の中で、ASDの特性として「論理的思考」「記憶力」「継続力」といった強みが挙げられていました。一方で、社会性の障害やこだわりによる摩擦も生じます。この「能力の凸凹(アンバランス)」こそが、生きづらさの正体であり、同時にその人の可能性でもあります。

③ 二次障害のリスク

適切な支援がない場合、うつ病や不安障害、あるいは依存症(アルコール、ネット等)といった二次障害を併発するリスクが高いことも指摘されました。特にADHDの方は報酬系の機能特性から、依存に陥りやすい傾向があります。


2. GIERIの視点:ギフティッド支援との交差点

私たちGIERIは、優れた才能を持ちながらも学校や社会で困難を感じる「ギフティッド」や「2E」の方々を支援しています。今回の医療的視点は、私たちの活動とも深くリンクします。

「特性」を「才能」として再定義する

研修で挙げられた「こだわりの強さ」や「論理的思考」は、GIERIの文脈では「探究心」「高い知性」と言い換えることができます。 医療現場では「生活のしづらさ」に焦点を当てて診断・支援が行われますが、GIERIではその「しづらさ」の裏側にある「突出した才能」に光を当てます。

しかし、ベースとなるのはやはり「自己理解」です。 「なぜ自分は周囲と違うのか」「なぜ特定の状況で失敗するのか」。 このメカニズムを、今回のような医学的知識に基づいて客観的に理解することは、ギフティッドの方が自己肯定感を取り戻すための第一歩となります。

孤立を防ぐ「ピア」の存在

昭和大学烏山病院のデイケアプログラムでは、同じ悩みを持つ仲間(ピア)との出会いが、安心感や自己肯定感の向上につながると報告されていました。 これはGIERIが提供するコミュニティの価値と同じです。高い知能を持つがゆえに話が合わない、理解されないという孤独感に対し、「同じ感覚で話せる仲間」の存在は、何よりの心の安定剤となります。


3. まとめ:個別最適化された支援へ

今回の研修を通じ、「公平(Equality)」と「公正(Equity)」の違いについての示唆(※全員に同じ台を与えるのが公平、身長に合わせて台の高さを変えて景色を見えるようにするのが公正)を改めて確認しました。

ギフティッド教育においても、画一的な教育ではなく、個々の「凸(強み)」を伸ばし、「凹(苦手)」を環境やツールで補う公正なアプローチが必要です。

GIERIでは、こうした医学的・心理学的なエビデンスを尊重しつつ、一人ひとりの才能が輝くためのサポートを続けてまいります。



【関連情報】
 本研修でも紹介がありましたが、2025年10月11日・12日には一橋講堂にて「第12回 成人発達障害支援学会 東京大会」が開催されました。最新の知見に触れる貴重な機会でした。


■ GIERI(ギフティッド国際教育研究センター)について
ギフティッド・2Eの方々の才能伸長と生活支援を行う専門機関です。 詳細なサービス内容は公式サイトをご覧ください。 URL: https://gieri-jp.com/




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