【参加報告】「普通」を目指さない支援へ。発達障害とギフティッド教育の交差点

 令和7年度 東京都精神保健福祉研修に参加して

GIERI(ギフティッド国際教育研究センター)代表の石川です。

2025年12月9日、東京都が主催する「発達障害者支援研修」に参加しました。 講師は、東京さつきホスピタル 発達・思春期精神科の遠藤季哉医師。

医療現場の最前線から語られる言葉は、単なる「障害の解説」にとどまらず、私たちがGIERIで掲げる「個の論理を尊重する教育」と深く共鳴するものでした。

本日は、研修内容のシェアとともに、GIERIとしての視点を交えた気づきをご報告します。

※本記事は「2025年12月9日発達障害者支援研修資料」および講義内容に基づき執筆しています。


1. 思春期 × 特性 = 「葛藤の二乗」

講義の中で特に印象的だったのが、思春期の発達課題と特性が掛け合わさることで、子どもたちが抱える葛藤が「二乗」に膨れ上がるという視点です。

  • 思春期心性: 親離れ、アイデンティティの確立、アンビバレンツ(万能感と劣等感の揺れ)

  • 発達特性: 空気が読めない、見通しが立たない不安、感覚過敏

これらが重なる時期に、周囲が「もう中学生なんだから」と「普通」を押し付けることが、どれほど彼らを追い詰めるか。二次障害(不登校や自傷など)は、彼らなりの必死の「SOS」や「自己防衛」であるという認識を新たにしました。


2. 「振り返り(反省)」は百害あって一利なし?

質疑応答に衝撃的な、しかし非常に納得のいく話がありました。 「ASD(自閉スペクトラム症)の子に、トラブル後の『振り返り(反省文)』は有効か?」という問いに対し、遠藤医師は「あまり意義がない、むしろ有害になり得る」と回答されました。

彼らは「なぜやったか(過去)」や「相手の気持ち」を想像するのが苦手です。そこに無理やり向き合わせることは、単なる苦痛(トラウマ)にしかなりません。

必要なのは「反省」ではなく、「次は具体的にどうすればよいか」という「演習(フォームの練習)」です。 精神論ではなく、技術的な「型」を教える。これはGIERIが重視する「具体的・構造的なアプローチ」そのものです。


3. GIERIの視点:障害ではなく「ギフト」として環境を整える

今回の研修を通じて、GIERIとして改めて確信したことが3つあります。

① 「社会モデル」で考える重要性

講義では「冬にコートを着ずに震えている子」の例えが出ました。 「風邪(症状)」を治すこと以上に重要なのは、「冬を春に変える(環境調整)」か、「コートを着せてあげる(スキル獲得)」ことです。 ギフティッドや2E(Twice-Exceptional:発達障害と才能を併せ持つ)の子どもたちにとっても同じです。彼らが輝けないのは、能力の欠如ではなく、環境(社会側)が彼らに合っていないだけかもしれません。

② 「論理(ロジック)」への敬意

「電車の行き先が『未定』になった時のパニック」や「こだわりの強さ」。 一見わがままに見える行動の裏には、彼らなりの切実な論理(ロジック)が存在します。 「見通しが立たない恐怖」や「自分の一部としての愛着」など、彼らの内的世界を理解せずして、真の教育や支援はあり得ません。GIERIでは、この「なぜそうするのか」という内的論理への敬意を最優先したいと考えます。

③ 支援者の「シャドウ」と向き合う

「好き勝手やっている子を見るとイライラする」。 それは支援者や親自身が「社会のために我慢して封印してきた自分(シャドウ)」を刺激されるからだ、というユング心理学の視点は非常に示唆に富んでいました。 私たち大人自身が「普通」の呪縛から解放されることが、子どもたちの「ギフト」を開花させる第一歩なのかもしれません。


おわりに

「発達障害」という診断名は、レッテルではなく、その子を理解し、適切な環境を用意するための「地図」です。

遠藤医師の言葉に「ASDの特性(こだわりの強さや独自の発想)は、研究者やクリエイターとしての強みにもなり得る」とありました。 これはまさに、GIERIが目指す「All Children are 'Gifted'(すべての子どもはギフティッドである)」という理念に通じます。

「治す」のではなく「活かす」。 「普通」に合わせるのではなく、「その子だけの道」をデザインする。

GIERIでは、医療・福祉の知見も積極的に取り入れながら、子どもたちの才能と個性が守られる教育環境の構築に、引き続き尽力してまいります。


■ GIERI(ギフティッド国際教育研究センター)について
ギフティッド・2Eの方々の才能伸長と生活支援を行う専門機関です。 詳細なサービス内容は公式サイトをご覧ください。 URL: https://gieri-jp.com/


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