【研修レポート】認知行動療法(CBT)の最前線とギフティッド教育への応用 ~大野裕先生の研修に参加して~

こんにちは、GIERI(ギフティッド国際教育研究センター)の石川です。

昨年(2025年)、日本の認知行動療法の第一人者である大野裕先生(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター 顧問)による「認知行動療法研修」に参加してきました
今回も昨年の研修の総括の報告です。

GIERIでは、ギフティッドや2E(発達特性を併せ持つギフティッド)の子供たち、そしてその保護者の方々の支援において、科学的根拠に基づいたアプローチを大切にしています。今回の研修で得た知見は、まさに私たちの活動における「対話」や「強みの活用」に直結する内容でした。

本日は、研修からの学びと、それをGIERIの視点でどう活かしていくかについてシェアします。

1. 「自動運転」から「手動運転」へ ~認知の修正~

認知行動療法(CBT)と聞くと、「ネガティブな考えを無理やりポジティブにする」というイメージを持たれることがありますが、それは誤解です。

大野先生のお話で印象的だったのは、認知(ものの受け取り方)へのアプローチは、ストレスなどでとっさの判断(自動思考)」がネガティブに偏ってしまっている状態(防衛本能による自動運転)を、「適応的思考(現実に即した柔軟な考え)」による手動運転に切り替える作業だという点です

ギフティッドの子供たちは、その高い認知能力ゆえに、一度「自分はダメだ」「完璧でなければならない」という思考パターン(スキーマ)が形成されると、論理的に自分を追い込んでしまうことがあります

  • 自動思考: 「また失敗した、自分には無理だ」

  • 適応的思考: 「今回はうまくいかなかったが、改善点は見えている。次はこうしてみよう」

このように、情報を正しく収集し、視野を広げる手助けをすることが、彼らの自己肯定感を守る防波堤になると再確認しました

2. ツールボックスではなく「プロセス」を大切にする

研修では「認知行動療法はツールボックスではない」という言葉がありました。単に「コラム法をやればいい」「呼吸法を教えればいい」のではなく、その人の背景や強み、現在の状況をしっかりと「概念化(定式化)」し、オーダーメイドで治療方針を立てることが重要です

これは教育相談も全く同じです。 「学校に行けない」という現象一つとっても、その背景には「感覚過敏による疲れ(身体)」「友人関係の誤解(認知)」「学習内容のミスマッチ(環境)」など様々な要因が絡み合っています。私たちは、ご本人やご家族と一緒にこの絡まりを解きほぐし、「どうなりたいか(治療目標)」を共有して進む必要があります

3. 「CT-R(リカバリーを目指す認知療法)」とギフティッドの親和性

今回の研修で特にGIERIの活動とリンクしたのが、最新のアプローチである「CT-R(Recovery-Oriented Cognitive Therapy:リカバリーを目指す認知療法)」です

従来のCBTが「ネガティブな信念の修正」に重きを置いていたのに対し、CT-Rは「適応モード(その人らしさが輝く最高の瞬間)」「アスピレーション(熱望・生きがい)」に焦点を当てます

  • アスピレーション(Aspirations): 「自分にとって大切なものは何か」「人生で何がしたいのか」

  • 適応モードへのアクセス: 共通の興味(音楽、科学、アートなど)や、その人が得意なことを通じてつながる

これはまさに、ギフティッド教育における「才能伸長(ストレングス・ベース)」のアプローチそのものです。 「できないことを減らす」のではなく、「熱中できること(アスピレーション)」をエネルギー源にして、結果的に困難を乗り越えていく

「成功は成功を引き寄せる」というCT-Rのサイクルは、不登校や二次障害で自信を失っているギフティッドの子供たちが、再びエネルギーを取り戻すための重要な鍵になると確信しました

4. 日常で使えるコミュニケーションスキル:「み・かん・てい・いな」

最後に、親子間や学校との対話ですぐに使えそうなスキルとして紹介された「み・かん・てい・いな」を紹介します。これはアサーション(相手を尊重しつつ自分の意見を伝える)のコツです

  • み(見る): 事実を客観的に見る。「~回言ったのに」ではなく「電球が切れている」

  • かん(感じる): 自分の気持ちを伝える。「困っている」「悲しい」

  • てい(提案する): 具体的な提案をする。「交換してほしい」

  • いな(否): NOと言われた時の代案を用意しておく。「今日が無理なら週末は?」

感情的になりがちな場面で、このフレームワークを思い出すだけでも、対話の質が変わります。

おわりに

大野先生の「やってみなはれ」という言葉通り、まずは小さな行動実験から始めることが変化への第一歩です

GIERIでは、今回の研修で得たCBTやCT-Rの知見を、教育コンサルティングや保護者支援のプログラムに積極的に取り入れ、ギフティッド・2Eの子供たちが「適応モード」で自分らしく輝けるよう、サポートを続けてまいります。


本記事の参考文献 大野裕 (2025). 認知行動療法研修資料 (一社)認知行動療法研修開発センター.

■ GIERI(ギフティッド国際教育研究センター)について
ギフティッド・2Eの方々の才能伸長と生活支援を行う専門機関です。 詳細なサービス内容は公式サイトをご覧ください。 URL: https://gieri-jp.com/


コチラも是非⬇ 

~医療的支援の最前線と、ギフティッド支援における「環境調整」の重要性~

【参加報告】「普通」を目指さない支援へ。発達障害とギフティッド教育の交差点

 【研修報告】「トラウマインフォームドケア(TIC)」を学ぶ:ギフティッド支援の現場から

「パーソナリティ」をどう捉えるか?—最新の精神医学から見る『個性』と『障害』の境界線(研修参加報告)

コメント

このブログの人気の投稿

「子育てジャーナル」のすすめ

『世界で学ぶ、異文化を越えて働く』 ⑦アルゼンチン編: マフィアの船で薬を盛られた日――“正しさ”が通用しない世界の歩き方

子どもの発達を考える「クリニック・病院」でできること